トラはそのまま逃げ去っていった。この時のトラは、すでにマルコフさんに対して大きな復讐心を抱いていたようだ。のちにトラはマルコフさんの住む小屋を追跡し、彼の匂いがするものを全て破壊して12時間以上も彼が戻ってくるのを待ち構えていたという。
そして何も知らずに帰宅したマルコフさんは、そのままトラに襲われてしまった。身体の一部が捕食されて頭と内臓がなく、遺体はバラバラの状態だったそうだ。人間の味を知ってしまったトラは数日後、森で狩猟をしていた地元に住むアンドレイ・ポチェプニャさん(Andrei Pochepnya)に襲いかかり、あっという間に死に至らしめてしまった。
2人の犠牲者が出たことで近くの集落はパニックに陥り、皮肉にもトラを守る立場であるはずのインスペクション・タイガーのチームが“人喰いトラ”の始末をすることになった。そしてトラは最終的にチームの銃弾を受けて絶命したのだった。
作家のヴァイラント氏は、2010年9月に米ニュースメディア『NPR』のインタビューに応じており、このように語っていた。
「トラはただトラであり続けようとしただけなんです。この地域の本来の魅力は、人間とトラが同じ領域で同じ獲物を狩りしているところにありました。しかし人間がトラを攻撃するという間違いを犯せば、それは後悔につながることになるのです。」
「私が知る中では、このようなやり方でトラが人間を狩るという出来事は記録がありませんでした。これは極めて異常な状況であり、完全に人間によって引き起こされたものなのです。もしトラが(マルコフさんに)撃たれていなければ、この物語は生まれてなかったでしょうね。」
またカリフォルニア大学ロサンゼルス校の教授であるダニエル・ブルームスティン氏(Daniel Blumstein)は、歴史&エンターテインメント専門チャンネル『HISTORY CHANNEL』の「Tiger Gets BRUTAL Revenge on Russian Hunter」に出演した際に、トラの行動について次のように述べていた。
「長い歴史の中で人類とトラのような捕食者は獲物が同じということもあり、このトラもマルコフさんが自分の生存を脅かす敵とみなした可能性がある。そのため敵を排除したいと考えたのでしょう。従ってマルコフさんの物語からは、トラから食べ物を奪ってはいけないという際立った教訓が備わっているのです。」
しかしながらマルコフさんの物語を知る人は、ブルームスティン教授が主張するトラの「自己保存本能」よりも単に「相手に復讐したい」というトラの強い欲求によるものだと信じる人が多いようだ。
画像は『Outside Magazine 2010年8月13日付「A True Story of Vengeance and Survival」』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 MasumiMaher)