マレーシア料理の教室を開いた。さらには、マンチェスターにある高級百貨店「セルフリッジ」内に「Ping Pan-Asian」というレストランを開業。「Ping Pan-Asian」で供される料理は瞬く間に現地の人々の舌を魅了し、ついにはロンドンの「セルフリッジ」にも同店を出店するに至った。
取材当日、ピンさんのシグネチャーメニューである四品を実食してきた。
一品目は、『チキンサテ Chicken satay』(6.5ポンド=約910円)。マレーシアのみならず、インドネシア、タイ、フィリピン、シンガポールなどの東南アジア諸国の屋台などでも見かけるサテは、日本の焼き鳥とも似ている。特徴的かつ伝統的なのは、ピーナッツをすりつぶした甘いタレをかけて食すること。肉自体にも香辛料が多く使われているが、決して辛すぎたり、香りがきつすぎることもない。
二品目は、『チャークイティオ Char kway teow』(13.95ポンド=約1953円)。マレーシアの国民食とも言われるこのチャークイティオは、米粉を使った平打ち麺に醤油で味付けをしたもの。ピンさんのレシピの特徴はこの平打ち麵に卵を練りこんであることだ。醤油ベースに米粉の麵とあって、これまで食してきたオリエンタルフードの中で、最も日本人に馴染みのある味と言ってもいいだろう。
三品目は、『シーフードカレーラクサ Seafood curry laksa』(13.95ポンド=約1953円)。ピンさん曰く、マレーシア料理はタイ料理と比べると味付けがマイルドであるとのことだが、このカレーラクサはそのなかでも「かなり辛いけれどぜひ熱いうちに食べて!」欲しい一品だという。最初の一口目はそれほど感じなかった辛さが、スープがのどを通るときに強烈に襲ってくる。だが、ご安心あれ。魚介の旨味とココナッツ、さらには卵麵がスープを一滴残らず飲み干させてくれる。
最後の四品目はお馴染み、『グリーンカレー Green curry』(14.95ポンド=約2093円)。グリーンカレー=激辛というイメージがあるが、マレーシアではそこまでの辛さではなく、添えられたジャスミンライスの香りとあい交わって、こちらも最後の一口まで辛さと旨味を楽しむことができる。ピンさんが料理教室の生徒たちからよく聞かれる質問に「美味しいごはんの炊き方」というものがあるそうだ。米自体に香りを持つ高級米であるジャスミンライスも炊き方は日本のお米とほぼ変わらず。実際に動画でピンさんがジャスミンライスを炊く様子を見たところ、鍋でじっくりと蒸していく様は古き良き日本の母の姿に似ている。
異国の地で自分の故郷の味を再現し、それを広めることは容易いことではない。「日本食」然り、現地の人々に受け入れてもらうためには、彼らの食の嗜好にアレンジする必要に迫られるからであろう。また、世界中の食材が手に入る環境にあるとはいえ、本場の野菜や香辛料などとはやはりどこか異なる食感や香りもある。そのようななかで忠実にマレーシアの母の味を再現し、イギリスっ子たちの舌をうならせるピンさん。二児の母であると同時に、今や売れっ子料理研究家であり、レストランを展開する実業家でもある彼女に、最後にどのようにしてこの忙しい日々を乗り越え続けることができるのかを尋ねた。ピンさんは「夫が常に協力してくれるからです。彼には本当に感謝しています」と言い残し、大急ぎでコートを着込み、たくさんの荷物を抱え、片道3時間をかけてロンドンから家族の待つ自宅までの帰路についた。
(TechinsightJapan編集部 村上あい)