海外発!Breaking News

writer : editor-murakami

【海外発!Breaking News】食の不毛地帯で美味探訪 スペインシェフが起こした革命・実食レポ<動画あり>

一転イギリスでもあまり見かけることのない一品がここで登場した。四品目となる『POLLO EN PEPITORIA』(6.25ポンド=約935円)は鶏肉とアーモンドのシチューだ。意外であったのは、味付けにクミンやサフランといった香辛料が使われていること。これまでにもいくつかのスパニッシュパブを訪れたが、こういった中東やインドの香辛料で味付けされている料理には今のところお目にかかったことがない。不思議に思い、オーナーシェフのオマール氏に尋ねてみたところ、彼の父親がインド出身であり、『TAPAS REVOLUTION』にはこうした香辛料が多くの料理に使われているということだ。オマール氏のルーツを辿っていくとヨーロッパという大きなくくりを越えて、中東やアジアまで味覚の世界が広がっていく。

『CHORIZO A LA SIDRA』(5.95ポンド=約860円)

五品目は『CHORIZO A LA SIDRA』(5.95ポンド=約860円)である。一見するとミートボールのようであるが、品名にもある通り『チョリソ(CHORIZO)』と呼ばれるオーストリアのソーセージをミンチし肉団子状にしたもの。味付けはトマトソースかと思いきや、これまたオマール氏の遊び心なのか、イギリスではサイダー(CIDER)として親しまれているリンゴの発泡酒でじっくりと煮込まれているという。チョリソと聞くと、メキシコの辛いソーセージを思い浮かべてしまうが、もともとはスペイン・イベリア半島を発祥とする豚肉の腸詰のことを指す。スペインではチョリソは人々の生活に深く根付いた食材であり、そのまま炒めるのはもちろんのこと、この『CHORIZO A LA SIDRA』のように、腸詰の中身を取り出し肉団子状にしてスープの具材にしたり、生のまま薄く切ってパンに挟んで食べることも多いそうだ。

『ARROZ NEGRO』(6.75ポンド=約980円)

ヨーロッパ、アジア、中東などなど若干、多国籍な味付けで舌が混乱し始めた頃、スペイン料理の代名詞であるパエリアが登場した。上記の写真はイカ墨のパエリア『ARROZ NEGRO』(6.75ポンド=約980円)。

『PAELLA DE POLLO』(5.95ポンド=約860円)

こちらの方がお馴染みだろうか。『PAELLA DE POLLO』(5.95ポンド=約860円)は、見た目も味付けも我々日本人が想像するパエリアそのものである。前述のイカ墨のパエリア『ARROZ NEGRO』よりも若干リーズナブルな価格設定であるのは、『PAELLA DE POLLO』が鶏肉と野菜を具材としているのに対し、『ARROZ NEGRO』はイカをふんだんに使用しているためであろう。イギリスにも『Billingsgate(ビリングズゲート) Fish Market』という魚市場が存在する。何度か足を運んでみたが、さほど広くはない市場のなかで販売される様々な魚介類と比較してもイカ一杯の価格が高い。ちなみにオマール氏によると世界最大の魚市場が、先月閉じた日本の築地市場だとするならば、スペインマドリードには世界で二番目に大きな魚市場があるという。

『GAMBAS AL AJJILO』(7.95ポンド=約1150円)

続く八品目はこちらもすでに日本でもお馴染みエビのアヒージョだ。『GAMBAS AL AJJILO』(7.95ポンド=約1150円)のレシピは、オマール氏直々に『TAPAS REVOLUTION』の厨房で披露してもらった。エキストラバージンオリーブオイルを写真の小鍋のなかに贅沢に注ぎ込み、ニンニクを加えその香りをしっかりとオイルに染み込ませる。オマール氏曰く「ニンニクがオリーブオイルの中で踊り始めたら」エビを大胆に放り込む。魚介類の新鮮さが売りの一つでもあるスペイン料理のため、エビに過度な熱を通さないことが重要だという。味付けはシンプルに岩塩のみ。「日本人は魚介類がとても好きですよね。生の魚(刺身)を食べることもあるほどですから。この『GAMBAS AL AJJILO』なら日本の皆さんにも簡単に作っていただけると思います」とはオマール氏の弁。

『スペインのカリスマシェフ』オマール・アリボイ氏

パブ発祥の地であり激戦区であるイギリスに単身乗り込んできたオマール・アリボイ氏(Omar Allibhoy)。本国スペインでは多くのグルメ番組に引っ張りだこのいわゆるカリスマシェフである。オマール氏の出演番組を見るとその人柄が伝わってくるが、実際に会った本人も写真のような満面の笑みで厨房に立ち、客やスタッフらとも家族のように接していた。

イギリスでは珍しい!? 明るく親切なスタッフ(左から:ルシアさん、ローラさん、ダナさん、シモネラさん、ニコさん、アビーさん、ビバリーさん)

しかし記者が取材に訪れた日は、なにやらオマール氏がそわそわしている様子が見て取れた。理由を尋ねてみると、この日はオマール氏の両親、妻と5歳になる息子、そして妻の母親が『Tapas Revolution Windsor』でランチを取っており、翌日には妻のサンドラさんが出産を控えているとのことであった。自身の家族と同じテーブルを囲み、明日には新しい家族も増える。まさに仕事とプライベートの両面で大家族を抱えるオマール氏。

最後に日本の消費者に向けてこのように語った。

「僕のレシピの源は全て僕の祖母から得たものです。『Tapas Revolution』でお出しする料理の数々は、僕自身の故郷の味と言っても過言ではありません。日本の皆さんは魚介類がお好きでしょう? 生で魚を食べることもありますよね。スペインにも世界第二位の規模を持つ魚市場があります。食材を厳選し、それらの良さを最大限に活かす。スペイン料理と和食には共通点が多くあると思います。日本の家庭料理と同じように僕の故郷であるスペインのタパスが日本の皆さんの食卓に並んでくれればこんなに嬉しいことはありません。」

そう言い残し、オマール氏は少し慌てた様子で妻のもとに駆け寄り店を後にした。

今回紹介した八品以外にも、多くのタパスやデザート、さらにはスペインのスパークリングワイン・カヴァを使った自家製サングリアも実食してみた。いずれも、余計な奇をてらった料理ではなく、素材の旨味を最大限引き出すべく、繊細に調理されたものばかりであった。

なかでも特筆したいのは、カヴァに様々なフルーツを漬けこんだ自家製サングリアだ。スペインのスパークリングワイン・カヴァには白とロゼがあるが、同店では白のカヴァに苺、レモン、オレンジ、パイナップル、スイカ、ブルーベリーなどのフルーツをふんだんに使用している。年々日本でもカヴァの輸入量が増加しており人気も定着しつつある。通常サングリアは赤ワインから作るのが主流とされてきたが、近年では今回のようにカヴァをベースとしたアレンジも人々を魅了している。

スパークリングワイン・カヴァを使った自家製サングリア

ロンドンの中心地からウィンザー城の真正面にまで店舗を広げた『TAPAS REVOLUTION』。ウィンザー城周辺では唯一のスパニッシュパブとはいえ、そこは世界中から観光客が集まる食の世界市でもある。

店内の窓からはウィンザー城を眺めることができる

言うならば『TAPAS REVOLUTION』が食の世界万博スペイン代表と言ったところか。10月16日のオープン以降、客足もなかなか好調のようだ。その名の通り、タパスの世界に革命を起こしながら、今後は海外展開も十分視野に入れているであろう。

(TechinsightJapan編集部 村上あい)

広々とした店内

綺麗に磨き上げられた厨房で忙しく手際よく調理するシェフ達

デザートのライスプディング『ARROZ CON LECHE』(3.95ポンド=約570円)

サングリアの元となっているホワイトカヴァ『CASTELL BLANC』

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