その際に呼気検査を受けると血中アルコール濃度が0.18~0.19%を示した。ニューヨーク州では0.05%から運転に影響のある数値とみなされ逮捕される可能性があり、0.18%以上になると酩酊状態と判断され重大な交通違反となる。シラフで意識もはっきりしていたマークさんはもちろん飲酒を否定したが、基準値以上の数値が出たので逮捕された。
「妻や両親には『何かおかしいんだ。何が起きているのかさっぱり分からないよ』と言い続けていました」と話すマークさんは、誤解を解くために訴え続けた。しかしこの翌年、運転中に携帯電話を使用した疑いで再び警察官に車を停められ呼気検査を受けた結果、基準値以上の数値が出たため飲酒運転の疑いで逮捕されてしまったのだ。
マークさんを信じ続けてきた妻でさえも、「私に隠れてこっそり飲酒しているのでは?」と疑うようになった。そしてマークさんは日中に行われた学校でのミーティング前に血液検査と呼気検査を受けるように言われ、その結果、高い血中アルコール濃度が出てしまった。「全く心当たりがない」とマークさんは主張したが、最後の2か月は強制的に有給休暇を取らされ、そのまま契約更新されずクビになってしまったという。
「この時、私は全てを失いました。家や車も売らなければならず、教育関係の職にも、食料品店での仕事にも就くことができませんでした。お酒を飲んでいないのに2度も飲酒運転で逮捕され、刑務所に入らなければならないような重罪に問われていたんです。」
原因が分からず失望するマークさんの代わりに、彼の母親が「人間は体内でアルコールを作ることができるのか」とグーグルで検索してみると、“自動醸造症候群(Auto-Brewery Syndrome、以下ABS)”という病名にたどり着いた。ABSの治療を専門とする数少ない医師の1人で、ニューヨーク州スタテンアイランドにいる消化器専門医のプラサナ・ウィクラマシンハ医師(Prasanna Wickremesinghe)のもとを訪れて約8時間の検査を受けたマークさんは、ABSと診断された。診断を聞いたマークさんは「『ようやく答えが見つかった』と感じ、人目も気にせず大泣きしました」と長年苦しめられてきた原因が分かり安堵したと話している。
2014年からABSの研究を続け、これまで30人の患者を診てきたプラサナ医師は「ABSは抗生物質が引き金となって腸内フローラが乱れ、真菌や酵母が腸内を支配すると考えています。ABSの人が炭水化物や砂糖を摂取すると、腸内で発酵が起きてアルコールが発生するのです。たった2時間で飲酒運転となる基準値の3倍の血中アルコール濃度になった患者を見たことがあります」と語っている。
治療には抗真菌薬の経口投与、または静脈注射が行われる。これに加え、最初の6週間は炭水化物抜きの食事を行い、その後数か月にわたって低炭水化物の食事制限を行うことで抗真菌薬の投与量を徐々に減らしていくという。
プラサナ医師は、これまでに診察した患者の中に飲酒運転で逮捕されたケースがあり、裁判でABSであると訴えても聞き入れてもらえなかったという事例があったそうだ。プラサナ医師はABSの存在を広めるため、これまでの研究結果を近々発表する準備を進めているとのことだ。
画像は『ABC7 New York 2023年3月17日付「Drunk without drinking: local doctor and patients detail life with Auto-Brewery Syndrome」』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 iruy)