「折り鶴」―日本のこの伝統工芸には、折る人の祈りや願いが込められていることがある。今、米国で折り鶴を毎日折り続ける一人の日本人が静かに注目を集めている。折り人の名は稲垣久生氏。米シアトルの日本総領事館で総領事を務める人物だ。稲垣氏は毎日同じスタイルで1羽ずつ鶴を折り、その制作報告をInstagramに日々投稿し続けている。一見とてもシンプルな投稿のなかで、折り鶴の数は今月21日で365羽に達した。総領事という激務のなか、毎日欠かさず鶴を折り世界に発信し続けるその思いの源を稲垣氏が記者の取材にて語ってくれた。
稲垣久生氏が米ワシントン州シアトルにある日本国総領事館の総領事に着任したのは昨年8月末、折しも新型コロナウイルスによるパンデミックの最中だった。
稲垣氏はシアトルに到着した昨年8月22日から毎日1羽ずつ折り鶴を作成し始め、その報告を自身のInstagramアカウントに投稿している。どの投稿も短い動画で、その日に作った折り鶴を手にし「シアトルに到着して○日目です。皆さんの健康と平和を祈りながら、○羽目の折り鶴を折りました」と英語でメッセージを発信している。稲垣氏のInstagramアカウントには、ほぼ同じ構図で撮影された投稿がずらりと並ぶ。この真摯な取り組みにネット上では驚きの声があがっており、千羽鶴の文化について説明する海外メディアもあった。
稲垣氏が日本を発ったと思われる2020年8月21日の同氏のInstagramには、当時の羽田空港の動画と画像が収められている。パンデミック前は多くの人で賑わっていた空港内の閑散とした様子に、稲垣氏は「静かな羽田空港」と一言だけコメントを載せている。「静かな羽田空港」に立つ稲垣氏の胸中に去来したであろう思いは想像に難くない。稲垣氏に話を聞いた。
―さっそくですが、折り鶴を始めたきっかけを教えてください。
稲垣氏:在外公館長として、日本を代表してSNSにてメッセージを発信する上で、パンデミックにより本当に様々な苦労をされている皆さんにお見舞いを申し上げたいという気持ちで折り鶴を折り始めました。
―周囲からの反応はいかがでしたか?
稲垣氏:開始した時点で既にパンデミックの最中でしたので、周囲の方々ともインターネット上やSNSを通じてのみ繋がっており、直接お会いして反応をいただいた訳ではありませんが、オンライン上での反応は概ね、「Thank you(感謝)」や「Keep up(続けてください)」といったコメントが多かったです。
364羽目の折り鶴を報告した投稿には「あと1日だ!」と丸一年を待ちわびるコメントも届いており、