エンタがビタミン

writer : maki

【エンタがビタミン♪】ROGUE奥野敦士、頸椎損傷からの復活を振り返り「腹から声は出なくなったけど、心から出るようになった」

映画やCMの仕事をして食いつないだもののステージには立てずにいた。するとソロになって18年、奥野が45歳になった2008年のことだ。解散以来全く連絡を取っていなかった親友の香川誠から電話があり、「ROGUE再結成しようぜ」というではないか。

奥野は「やろう! やろう!」と素直に受け止め、バンド再結成に一歩近づいたのである。酒浸りのすさんだ生活から抜け出す決意をした彼は、ライブで歌える体力をつけようと解体業のアルバイトで体を鍛えはじめる。その意志は強く身も心も元気になった彼だが、思わぬ災難に遭う。

2008年9月11日、工場の屋根を解体する仕事で靴が滑って転んだはずみで屋根が壊れ、7メートル下の地面に落下したのだ。

病院で目が覚めた時には自力で起き上がることもできず、頸椎損傷により下半身を動かせなくなっていた。医師からは「全面的な生活介助が必要で、アーティストとしての復活は一般的に考えて無理」と告げられる。

音楽の道を諦めかけていたところ、事故から1年半ほど経ったある日、1枚のDVDが送られてきた。それはROGUEメンバーと仲間たちが奥野を励まそうと開催してくれたライブ映像で、多くのファンからビデオメッセージも届いた。

それを見て号泣した奥野は「これは何かしなけりゃいけない」とやる気を取り戻し、「自分に唯一残されているのは歌うことだ」と思い至る。

リハビリ担当の作業療法士に「どうしても歌えるようになりたくて! どうすればいいですか?」と相談したところ、カラオケルームを準備してくれた。しかし奥野がマイクに向かっても「あ、あ」としか言えず、歌声が出てこない。頸椎損傷の影響で腹筋に力が入らないのである。

それでも彼は諦めず、カラオケで歌おうと努力するうちに腹筋を使わない歌唱法を編み出した。車いすでシートベルトを締めて前にかがむと腹がギュッと締まる―それを利用して歌声を出すというものだ。

歌声を取り戻した奥野は、カラオケでルイ・アームストロングの『What A Wonderful World』(この素晴らしき世界)を歌うところをスマホで撮ってYouTubeに投稿した。

すると偶然、それを見たMr.Childrenの桜井和寿が群馬の病院まで訪ねて来た。彼が主催する野外フェスに出てもらえないかというのだ。奥野にとって跳びあがるほど嬉しい話だが、実は頸椎損傷により汗がかけず自分で体温調整できないため野外フェスでは熱中症になるかもしれない。残念ながら断るしかなかった。

その後、ミスチル桜井は野外フェスで「ROGUEというバンドを中高生時代に好きで聴いていて『終わりのない歌』というすごいいい曲があるんです」とギターで弾き語り、さらに奥野が『What A Wonderful World』を歌う動画を紹介した。

今度は偶然ネットでそれを見た香川誠が「奥野のことを桜井君がしゃべってる…奥野歌えるんだ」と驚き、諦めかけていたROGUE再結成に向けて動き出す。

2013年10月19日、グリーンドーム前橋にて行われた『GBGB2013』でROGUEは再結成を果たし、23年ぶりに4人が揃った。奥野敦士は全国から群馬に集まったおよそ4000人のファンを前に7曲を熱唱したのである。

今も奥野は伝説の復活ライブについて「ひとりじゃ絶対できなかったよね。この体だから皆に支えられなければならないし。何しろ仲間だよね、ファンの方と…」と思い出して感慨深げだ。

これから目指すことを聞かれると「売れようとかそういうのはもう思わない。歌い続けることが皆の希望になっていいんじゃないかな、俺もそれが一番ハッピーだしね」と笑顔で答えた。

「腹から声は出なくなったけど、心から出るようになった」という奥野敦士。番組では再結成後も活動を続けるROGUEが2016年10月にリリースしたアルバム『DESOLATION ANGELS』より『GET THE GLORY!』を演奏する映像を流したが、芯が太く力強い歌声が印象的だった。

そんな彼は2016年5月に「熊本地震、東北大震災震災で愛する人、家や希望を失ってしまった方へ 少しでも力になれればと思い書き下ろしました」と楽曲『明日を信じて』をYouTubeに投稿しているが、こちらは語りかけるような歌声だ。視聴した人からは「ありがとうございました。この楽曲を聴いて、ただ、あなたに感謝したい気持ちになりました。本当に、ありがとう」、「素敵な歌声と素敵な歌詞ですね。聴くたびに心がジーンときます。これからも応援してます」とコメントが寄せられている。

ROGUE解散からのすさんだ生活、さらに事故で歌声を失くしてからの復活といった苦難を経て、奥野敦士はまさに「心から出る声で」歌えるようになったのだ。

画像は『Atsushi Okuno 2016年6月27日付Instagram』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 真紀和泉)

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