グレーター・マンチェスターのオールダムに暮らすケリー・ファイドー=ホワイトさん(36歳)は、「トリメチルアミン尿症」という珍しい疾患を持っている。これは「魚臭症候群」とも呼ばれ、その名のごとく腐った魚や玉ねぎ、糞便のニオイのする体臭を持つ世界で300~600人程度しか存在しないと言われる奇病だ。
通常は食べ物を口にすれば体内で消化分解されるが、ケリーさんの場合トリメチルアミンという化合物が分解されずに汗や呼吸、尿の中に排出されることによってそれが悪臭となり体から発せられるという。
ケリーさんは生まれた時からこの疾患を持っていたが、ニオイに気付いたのは10代の頃だった。周りの友人から「ケリーって魚のニオイがするね」と言われるたびに「今日はランチに魚のパテを挟んだサンドイッチを持って来たから」とごまかすことが多々あったそうだ。
10代後半なって「自分の体のどこかがおかしい」と確信を持ったケリーさんは、医師に診断を仰いだがその時は原因不明とされた。ニオイにあまり敏感ではないタイプのため、悪臭を放つ自分の体臭と向き合うことは尚更困難だとケリーさんは言う。これまで1日2回は着替え、デオドラントスプレー缶をまるごと使い果たしたり、シャワーを浴びるたびに皮膚が真っ赤になるほど執拗に体を洗ったりしたが、どれも効果がなく皮膚を擦れば擦るほどニオイが悪化した。
ケリーさんは現在、地元のロイヤル・オールダム病院でレントゲン技師として働くが、できるだけ人に体臭を晒さないように夜勤のシフトで通っている。親しい同僚はケリーさんの疾患を理解しているものの、廊下をケリーさんが歩くたびに強烈なニオイが鼻を突くために他のスタッフや患者からの苦情が絶えないそうだ。しかし、どれだけ苦情を得たところでケリーさんの疾患を完治させる薬はなく、今は複数の薬を服用してこれ以上症状が悪化しないように保っているという。
薬の副作用もあり不安や孤立感に悩まされるケリーさんが、はっきりと「トリメチルアミン尿症」と診断されたのはわずか2年前だった。テレビでドキュメンタリー番組を見ていて「もしかして自分の病では」と思い病院を訪れたことがきっかけだった。
ケリーさんは医師に「魚介類を食べると体臭として強く出る」と言われており、普段の食生活にも影響が出ることは否めないのだが、彼女には心から愛しサポートしてくれる夫がいる。16年前にインターネットを通じて知り合ったマイケルさん(45歳)は当初、ケリーさんのニオイには気付かなかったという。一緒に暮らし始めるようになってからケリーさんの独特なニオイに気付いたが、それを口に出して言うことはない。「私はただ、妻を支えるだけですよ。彼女は人として素晴らしいですから」と理解を示している。
長い間苦しんで来た疾患に対し、今はようやく世間に話せるほどの自信がついたとケリーさんは語る。「とはいえ、『クサイ』といわれたら気分を害してしまうかもしれませんが、ちゃんと説明できるほどの余裕はあります」と話している。これからもこの奇病と向き合っていかなければならないケリーさんだが、彼女を日々サポートしてくれる夫や両親、同僚がいることがなによりの救いだろう。
出典:http://metro.co.uk
(TechinsightJapan編集部 エリス鈴子)