ジャレッド・ウォールさんはランチをとりに、連れとあるカフェを訪れていた。そして隣の席の高齢者の女性2人が差別発言をしているのを偶然耳にしてしまった。
その女性たちは、オーストラリア先住民の「アボリジニ」のことで聞き捨てならない発言をしていたという。ニュージーランドの「マオリ」や日本の「アイヌ」同様、先住民としてその土地に根付き、文化を培い独自の習慣を持つ彼らは、何かと差別の対象になりがちだ。
高齢者女性2人の会話を聞いて、ウォールさんは不快になった。というのも、彼の祖先はアボリジニだったからだ。そして連れ合いも同じくアボリジニを祖先に持っていた。
ウォールさんが自身のFacebookに綴った文章によると、高齢者女性は話に夢中になるあまり、アボリジニについて差別発言をしていたにもかかわらず声を落とすこともなく話していたという。そこでウォールさんは考えた。相手は高齢者であり、しかもプライベートな会話中だ。割って入って相手を不快な気分にさせるより、もっといい方法を思いついた。
ウォールさんは、ミシェル・オバマ米大統領夫人が7月に民主党全国大会のスピーチで発言した言葉に強い感銘を受けていた。それは「相手が低いレベルでも、自分たちは高いレベルを保ちなさい」というものだ。「相手の言動をどれだけ不快に感じても、自分は(相手と)同じレベルには決してなってはいけない」という意味が隠されているオバマ夫人の言葉をウォールさんは実行することにした。
ウォールさんは高齢者女性2人のために紅茶をオーダーし、レシートに「お茶、楽しんでください! あなた達の隣の席に座っている2人のアボリジニからの好意です」とちょっと皮肉ったメッセージを添えた。
「今度から彼女たちは、発言する前にちょっと考えてくれるといいなと思う」と記したウォールさんのFacebookには、これまで2万以上の「いいね!」が集まり、2千以上のシェアと2千件以上のコメントが寄せられている。
なかには「あくまでも隣の席の会話だから、何を聞いても無視するべきだったのでは? だってあなたは無関係だし大きなお世話でしょう?」という意見もあったようだ。しかしこれに対して「無関係じゃないよ。彼は自分の尊敬する先祖のことを言われたんだ。自分に関係している聞き捨てならない発言だったから、紅茶で皮肉ったんだと思う」といった反論もあった。
他人の会話にどんなやり方であれ口を挟むのは勇気がいること。それが赤の他人のプライベートな会話であればなおさらだ。しかし時として何らかの方法で相手に気づきを与えることが必要な場合もあるだろう。
女性は熱が入ると周りが目に入らなくなり、お喋りに夢中になってしまうことが往々にしてある。高齢者女性とて同じだろう。ウォールさんのとった行動は、周囲の視線などお構いなしに差別発言をしていることへの配慮を促しているのと同時に、誰が聞いているかわからないので「どうぞ公衆の場での発言には気を付けてくださいね」と言う注意喚起の意味も含まれていたのかも知れない。
出典:http://metro.co.uk
(TechinsightJapan編集部 エリス鈴子)