約5,000人に1人の割合で発症するといわれる「ロキタンスキー症候群」は、「メイヤー・ロキタンスキー・クスター・ハウザー症候群(MRKH)」と呼ばれ、子宮と膣が一部もしくは全部欠乏して生まれる先天性の疾患だ。
原因はいまだ解明されていないが、おそらく胎児の発育障がいによるものではと推測されている。通常、思春期になっても生理が来ないことで気付くことが多く、多感な時期に「妊娠不可能」と宣告されてしまうことで精神的にもかなりの苦痛を負う疾患だと言われている。
手術によって人工膣を装着することができるため将来、パートナーとの性行為はできるようにはなるものの、どうしても自分の子供を妊娠したいと強く望む女性にとって「子宮がない」というこの疾患は残酷以外の何ものでもない。
フェイさんも19歳でこの難病と診断されてから激しく落ち込んだ。自分の周りで次々と子供を産んでいる友人たちに対して、祝福したい気持ちはあるものの「どうして自分はこんな体なのか」と悩んだという。その葛藤は妹のキムさんが20歳になり、パートナーのジェイソン・バギンスキーさんの子を妊娠した時にも起こった。
2011年1月、フェイさんはある1人の男性と出会った。前のパートナーとの間にすでに3人の子供がいる41歳のトニーさんとの間に特別な絆を感じたフェイさんは、自分の病気のことを告白した。しかし絆が深くなるにつれ、やはり「彼との間に子供が欲しい」と願うようになった。
そこでフェイさんは、自分の卵子とトムさんの精子を体外受精させて代理母出産で子供を持つことを希望し、国営保健サービス(NHS)に相談した。ところがNHSは「トニーさんにはすでに子供が3人もいるから」という理由でこれを拒否、フェイさんを失望させた。
フェイさんの落ち込みは家族にも伝わっていた。プライベートの不妊治療には最低6000ポンド(約80万円)の費用がかかる。そんな余裕がない自分の娘を見て、フェイさんの両親ジューンさんとデイヴさんは、自分たちの貯金からプライベート治療の費用を負担することを申し出た。そして妹のキムさんもパートナーのジェイソンさんと相談し、フェイさんの受精卵の代理母になることを決めた。
思ってもいなかった家族の申し出に感激したフェイさん。両親と妹の協力がなければ決して叶うことのなかった夢だった。3度目の体外受精の後、キムさんは妊娠したものの妊娠31週目に入った今年4月、妊娠高血圧症候群である子癇と診断された。母体に危険が及ぶとの医師の判断で、キムさんはそれから10日後に陣痛促進剤を使って待望の息子、ラルフィー君を出産した。
キムさんは、フェイさんの妹という存在であっただけに姉の苦悩をずっと身近に感じてきた。そして今回、代理母出産をしたことで姉の夢が叶い、喜びを隠し切れないという。フェイさんの両親に少しずつでも借りた費用を返していきたいとトニーさんは申し出たが、フェイさんの両親は「心配しなくてもいい。費用は私たちから孫への最初のプレゼント」と伝えたそうだ。ちなみに今回ラルフィー君を授かるまでにかかった費用は2万2000ポンド(約295万円)にも上った。
家族がひとつになり、フェイさんの夢が叶った瞬間は、きっと何ものにも代えがたい幸せだったことだろう。ラルフィー君は現在4か月で、すくすくと成長している。フェイさんは英紙『Mirror』に「息子が成長したら、どれほどあなたは望まれて生まれて来たのかということを伝えたい。最高のギフトを手に入れられて幸せです」と笑顔で語っている。
出典:http://www.mirror.co.uk
(TechinsightJapan編集部 エリス鈴子)