仏俳優フランソワ・クリュゼ(68)が、「パリに住む身体が不自由で頑固な性格の富豪」役として主役を演じた映画『最強のふたり』(原題:Intouchables、2011年公開)はフランスでの歴代観客動員数第3位(1949万人)となる記録を打ち立てた大ヒット作品だ。この『最強のふたり』での演技が評価され、フランソワ・クリュゼを抑え、第37回セザール賞主演男優賞を受賞したのが同作のもう一人の主役を演じたオマール・シー(45)だ。これをきっかけにハリウッドへの扉を開いたオマール・シーは、アメリカの超大作映画『X-MEN』、『ジュラシック・ワールド』、『インフェルノ』などに出演。2021年にはNetflixの『Lupin/ルパン』シリーズに主演し、今年の10月5日からはシリーズのパート3が配信される。今や世界に知られる俳優となったオマール・シーだが、そのキャリアは『ルパン』で見せる憂いある彼の表情や姿からは想像できない。しかし、日本人からするとどこかに既視感(デジャ・ビュ)を感じるのだ。
『ルパン』といっても、フランスの小説家モーリス・ルブランが発表した推理・冒険小説「アルセーヌ・ルパンシリーズ」の主人公を演じるわけでも、不二子ちゃんや石川五ェ門が出てくるアニメ『ルパン三世』のフランス語版でもない。窃盗の濡れ衣を着せられ、失意のうちに獄中で自殺した父親を持つセネガル系の青年が、父親から生前に贈られた怪盗紳士アルセーヌ・ルパンの小説に触発され、25年後に自らの泥棒・変装技術やカリスマ性を用いて復讐を試みるというミステリーストーリーだ。
このシリーズの設定同様、オマール・シーもセネガル系フランス人でセネガル人労働者とモーリタニア人(セネガルとモーリタニアの国境にあるバケル村出身)清掃員の間に生まれた8人兄弟の4番目である。『最強のふたり』以前は映画の出演経験は少なく、俳優兼コメディアンのフレッド・テスト(46)と組んで「オマールとフレッド」というまんまのコンビ名でコントを行っていたコメディアンであった。特に2005年から2012年の間、フランス放送局「Canal+」の看板番組の一つであった「ル・グラン・ジャーナル」内で「オマールとフレッド」のコーナーを持っていたこと、またその他のバラエティー番組などに出演していたことからコメディアンとしてその名は知られていた。
人懐っこさと屈託のない笑顔、そして嫌みのないお笑いスタイルで幅広い年齢層から愛されているオマール・シー。『最強のふたり』のドリス(オマール・シーの役)は、フランスのお茶の間で見た彼そのものであったといえよう。このイメージはその後に出演するハリウッド映画でもほぼほぼ変わっていない。
だがNetflixの『ルパン』シリーズで見せる姿は、