英ウェールズ北西部アングルシー島に住むベン・ライアンさん(40)は長年、心理学の教師を務めてきた。2015年3月、パートナーであるケイト・スミスさん(38)との間に待望の息子ソル君が誕生したが、左腕先端部分に血栓があったソル君は生後10日にして左肘下の切断を余儀なくされた。
ベンさんはその時のことを振り返ってこう語っている。
「ソルの腕を切断した時は本当につらかった。心が晴れない日が続きましたが、ある時ふと思ったのです。いつまでも悲観的になっていてはいけない。できないことではなく、できることに目を向けようと…。」
「そしてまずは『ソルに義手をつけてあげよう』と思いました。脳が発達する時期に手や指を動かすのは非常に大切なことですからね。しかし医療機関は『1歳になるまでは物を掴むことができる機能の義手をつけることはできない。自分でコントロールが可能な、電気を使った義手は早くても3歳になるでしょう』とそっけなかった。愕然としましたね。」
納得がいかないベンさんはある日、自宅で発泡スチロールを丸めたものを義手に見立て、ソル君の左腕にセロハンテープでくっつけてみた。するとソル君は、切断後はぶら下がっていただけの左腕を使ってそばにあったおもちゃを叩き始めたのだ。生後5週目の出来事だった。
「ソルが左腕を使っている。これだ! 自分で義手を作ってみよう。」
この日を境に、ベンさんはソル君の義手を作ることにのめり込んでいった。自宅でリサーチを重ねてモデルを作り、バンガー大学のイノベーション・ラボ「Pontio centre」に足を運んでは協力を依頼した。こうして12年間の教師生活に区切りをつけ、いつしか義手作りはベンさんの本業となった。
ベンさんが義手を作るうえで活用したのはXboxのスキャナーと最先端の技術を持つ3Dプリンターだ。これにより完成までの期間は5日に短縮され、コストは従来に比べて76%もの削減が可能となった。電池でなく水圧を利用した義手は小さいパーツがなく安全で、指を動かすことも可能だ。
ベンさんはバンガー大学だけでなくソフトウェアの開発・販売を手掛ける「オートデスク(Autodesk)」を含む複数の会社からのバックアップを受け、ついには「アンバイオニクス(Ambionics)」という会社を立ち上げた。
「ソルがいたから始まったこと。だから最後はソルに戻るのです。義手をつけたソルは2本の腕がある子ができることの90%ができます。でもあとの10%の部分をなんとかしてあげたいのです。」
「それにこの義手を待ってくれている子供たちがきっといるはずです。より洗練された、安全な義手を絶対作ってみせます。」
こう語るベンさんは今月1日、FDA(アメリカ食品医薬品局)の認可などにかかる費用や今後の活動資金を集めるため、クラウドファンディングサイト「Indiegogo」で寄付を募った。目標額は15万ポンド(約2100万円)だという。ベンさんの挑戦はまだまだ続くが、彼の熱い想いに賛同してくれる人がたくさん現れることを期待したい。
3Dプリンターを活用した義手や義足の開発には目を見張るものがあるが、その一方で失った身体の一部を移植手術により手に入れる人もいる。昨年8月にはアフガニスタンで重傷を負った元海兵隊員が「シェフになりたい」と両腕の移植手術を受けて話題になった。また中国では交通事故で耳を失った男性が自分の腕で耳介を再建し、それを頭部へ移植するという試みに挑戦している。
出典:https://3dprintingindustry.com
(TechinsightJapan編集部 A.C.)