スコットランドのラナークという町の出身者であるジミー・フレイザーさん(54歳)は、結婚し2人の子供に恵まれながらロンドンで暮らしていた。しかし今から13年前に離婚。家庭が崩壊するという辛い状況で、フレイザーさんはエディンバラへと移り住んだ。
エディンバラでは、地元ボランティア団体「The Ark Trust」が支援するホームレスのための宿泊施設に寝泊まりしていたこともあったという。しかしその団体も数年前に閉鎖されてしまった。
長年エディンバラでホームレスとして生きて来て、まともに生活するだけの余裕がなかったフレイザーさんに、ある日思わぬ出来事が訪れた。エディンバラを旅行中だったスウェーデン人姉妹のアニス・リンドクヴィストさん(37歳)と妹のエマさん(31歳)が、フレイザーさんの人生を大きく変えたのだ。
エディンバラ市内のジョージストリートにある階段に座り込んでいたフレイザーさんは、道に迷ったというアニスさんとエマさんから声をかけられた。パブへの行き方を聞き親しく話しかけてきた女性2人に、フレイザーさんは最初、警戒心を抱いた。というのもこれまでのホームレス生活で、見知らぬ相手から暴力行為を受けたり侮蔑されることが少なくなかったからだ。
しかし、アニスさんとエマさんは違った。話していくうちにフレイザーさんと姉妹の間に友情のようなものが芽生えた。そこで電話番号を交換し、姉妹が帰国する前日に「無事に着いたら連絡して」と言い別れた。
「『また明日会ったら、飲み代奢ってやるよ』と言う人がいますが、決してその通りにはならないものです。でも、あの姉妹は信じられないことを現実にしてくれたのです」とフレイザーさんは言う。
スウェーデンに帰ったアニスさんは、頻繁にフレイザーさんと連絡を取るようになった。そしてフレイザーさんを自分の住む街Sagmyraへ招待した。ダニエルさんという夫と3人の子供がいるアニスさんは、ホームレスのフレイザーさんに航空券を用意しただけでなく、パスポートを新しく申請するお金を送り、フレイザーさんがクリスマスにスウェーデンで過ごせるように手配したのだ。
思わぬことからスウェーデンへ招待されたフレイザーさんは、夢のような気持ちでアニスさん家族やエマさんのもとを訪れた。アニスさんの3人の子供(13歳、8歳、5歳)と夫のダニエルさんに快く迎えてられたフレイザーさんは、ダニエルさん側の家族とも過ごし、アニスさんの親戚一家とも会った。アニスさんによると、異国のホームレスをクリスマスという伝統行事に招待したことに「気でも触れたのか」という態度を見せた親戚もいたそうだが、実際にフレイザーさんを紹介すると彼らはフレイザーさんの心根の良さに気付き、すぐに打ち溶けたという。
また、フレイザーさんはアニスさんたちに地元のアイスホッケーチームの試合鑑賞に連れて行ってもらい、北欧の伝統料理の一つである”エルクのミートボール”の食事も堪能、さらには地元のテレビ番組にも出演するという経験もした。
そしてフレイザーさんがスウェーデンからイギリスに帰る時には、アニスさんの家族が、服や必要な生活用品などをたくさん持たせてくれたそうだ。
長年のホームレス生活の中で、「これほどの親切を経験したことは一度もない」とフレイザーさんは話している。「普通は、路上で誰かが横たわっていても酔っ払っているか倒れているかなんて誰もわからないし、みな通り過ぎるでしょう。アニスさんが、なぜここまで親切にしてくれたのかはわかりません。でも、本当に嬉しかった。エディンバラに戻ってきても、あのクリスマスの出来事がまるで夢のようで、未だに信じられません」というフレイザーさんだ。
しかし、話はこれで終わらない。なんとアニスさんは今年の春のイースターホリデーにもフレイザーさんをスウェーデンに招待しているという。アニスさんは「彼はもう私たち家族の一員です」と話しており、フレイザーさんも「彼女たちに早く会いたいし、会うのが楽しみです」と同紙に語っている。
アニスさんと出会ったことで、パスポートを申請できたフレイザーさんはID(身分証明)を得ることができ、今後ボランティア活動もできるようになるという。そしてID持ったことで、アパートを見つけることもできたそうだ。
ホームレス生活で様々な辛い経験をしたフレイザーさんだが、アニスさんたちと知り合ったことは、今後の彼の心の支えになっていくに違いない。現在、寒さが厳しいスコットランドで“暖かくなる春が待ちきれない”という人がまた一人増えたようだ。
出典:http://metro.co.uk
(TechinsightJapan編集部 エリス鈴子)