出産時の母子感染により、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染していると診断されたジンバブエの15歳の少女。しかしいまだ元気であることを理由に、有効とされる治療を何一つ受けていない。専門家らは今、AIDS未発症のこうした少年少女に対して早期発見、早期治療の大切さを呼びかけている。
アフリカ南部のジンバブエ共和国に暮らす、タディサちゃんという15歳の少女はヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染している。感染者の母親から誕生し、分娩の際に母子感染してしまったのだ。そのため医師からは「そう長くは生きられない」と告げられていたが、15年も体内にHIVが潜んでいるというのに心臓、肺、脳、皮膚などに感染者特有の症状が現れず、健康状態も悪くないために何の治療も受けていない。
公衆衛生および熱帯医学を専門とする有名なロンドンの大学院、「London School of Hygiene and Tropical Medicine」のラシダ・フェランド医師は、タディサちゃんのようにAIDSを発症していない少年少女がジンバブエには数千人いるとし、「こういう子供たちにこそ早く検査を勧め、適切な治療を受けられるようにしなければ」と語る。2004年以来、HIV感染者に有効だとされる抗レトロウイルス療法(ART)がアフリカにも導入され、成人感染者の3分の2が治療を始めたというのに、子供たちのほとんどが未治療。いつAIDSを発症するか分からない状態なのだ。HIV感染を親から知らされていない子供が圧倒的に多いのは、幼いこともあり、外で「血液検査をしたら陽性だった」と漏らす可能性があるため。家族全員が感染者だという目で見られるようになることを恐れているのだ。それゆえ、10代後半になってから家族から感染を告げられたり、体調不良のため自ら血液検査を申し出て初めて感染を知ることが多いという。
フェランド医師は、母子感染した子供たちが発症と未発症に二分された理由が何であったのかに興味を示すとともに、AIDSで両親を失い教育を満足に受けていない子供たちへの経済的な支援を行っている。1990年代のジンバブエではHIV母子垂直感染は日常的に起き、大変な数の子供たちが幼くして亡くなっていた。世界のHIV感染者の7割近くがサハラ砂漠以南のアフリカに集中し、ここでは成人の20人に1人が感染者で男性より女性が多いことも特徴だ。
ちなみに抗レトロウイルス療法(ART)とは、複数の抗HIV薬を組み合わせて飲む方法である。副作用の発現も多く完全なるウイルスの排除は叶わないが、ウイルスの増殖を抑えこむことでAIDS死亡者を激減させている。日本でもHIV感染が心配な方は最寄りの保健所に相談すること。早期の治療開始が何より大切だそうだ。
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(TechinsightJapan編集部 Joy横手)