スカーフを頭にかぶっている美しい18歳の少女の写真がある。しかし彼女には鼻がない。見えないが両耳も切られているのだ。この写真は南アフリカの女性フォトグラファーが撮ったもので、2010年度世界報道写真(World Press Photo)に選ばれた。
少女の鼻の部分は削られたようになっており、鼻があるべき場所にはぽっかりと黒い穴が開いている。この写真の少女(18)はアフガニスタンのある村に住んでいたが、タリバンに属している夫の両親による虐待に耐えかねて逃げ出した。その後少女は捕まり、夫の弟が彼女を地面に押さえつけ、村の女性への見せしめとして彼女の夫が両耳と鼻をそぎ落としたのだ。
南アフリカ女性カメラマンのジョディ・ビーバーさん(44)は、少女の写真を撮影、昨年8月のTIME誌の表紙を飾った。その写真は今年2月に発表された2010年度の世界報道写真(World Press Photo)コンテストで10万件以上もある候補の中から選ばれた。
3月5日にヨハネスブルグで行われた討論会で、ビーバーさんは「受賞の知らせを受けたとき『まさか!信じられない』と思った」と語っている。歴代の受賞作品は事件や事故の出来事を収めた動きのある報道写真であるのに較べて、彼女の写真は肖像写真であったからだ。普通ならば“暴力の被害者”として紹介され、切断された耳まで見せるように撮るのだろうが、ビーバーさんは彼女にカメラを見るように指示して女性の強さを引き出した。
この少女は非常に魅力的であり、彼女の目からは内に秘めたパワーを感じさせる。「初めて少女のいる収容施設を訪れたときに何枚か写真を撮った。そのときに本当に美しい少女だと気づいた。」というビーバーさん。地面に押し付けられた時の少女の気持ちは想像を絶するだろうが、同時に少女自身に少女のパワーや彼女の持つ美しいものを見て気づいてもらいたいと思ったそうだ。
一方でこの写真を「戦争のポルノグラフィー」と批判的な意見もある。TIME誌に掲載された際も「もしアメリカがアフガニスタンを見捨てたらどうなるか?」といった、ビーバーさんは出版するまで知らされなかったのだが、ある種の戦争への宣伝効果にもなってしまった。しかしそれでもビーバーさんは「この写真が戦争への論争を巻き起こして、人々が戦争について考えてくれるのならば、素晴らしいことだと思う」と前向きである。
たとえ批判されたとしても、この少女の美しさと強さがあふれ出ている。だからこそ審査員も選んだのだろう。少女の美しさはWorld Press Photoで見ることができる。
(TechinsightJapan編集部 近藤仁美)