富士康(フォックスコン)の従業員が相次いで自殺している事件で、中央政府が調査に乗り出すことを発表したが、中国メディアも原因追及の手を緩めていない。各地から記者が集まり、作業員の振りをして、工場の潜入調査に挑んだ。そこで記者たちが見たものは。そして“取材”であるはずの潜入で、記者自らが本来の目的すら忘れ、“死ぬなら富士康”の犠牲になりかけたのである。
調査に入った記者たちの報告によれば、富士康内部では厳格に階級が分けられており、仕事中は厳しい管理でミスが許されない状態だという。
また、シフトは同じ宿舎の従業員同士で休憩時間が重ならないように組まれ、従業員が他人との交流を図れないように管理されている。そのため、従業員はルームメイトの名前すら知らない。
千人ほどの従業員が食事をする食堂では、ガヤガヤと声が聞こえてもよさそうなものだが、そこは静まり返った空間だという。従業員たちは誰に催促されるわけでもないのに、足早に歩き、食事も手早く済ませる。
まるでロボットのように、ただ黙々と作業をこなす従業員たち。
調査に入った記者の中には、このような軍事化管理に抗えず、記者の職責を忘れて生産ラインの一歯車となりかけたものもいる。
調査を終え、職場から去ろうと歩き出した時、上司に「戻れ」と指示されて、無意識にきびすを返してしまったというのだ。途中で我に返り、本来の場所に戻ったが、周りの者の話では潜入前に比べ、精神がひどく落ち込んでいるという。
“なぜ、自殺者が相次ぐのか。”
各界から注目が集まっているが、当の富士康従業員たちの考えは“どこでも同じ”。他の工場でも環境は似たようなもの。どんな環境だろうと富士康にいさえすれば稼ぐことができる、というわけだ。
これだけの騒ぎになっても、入社希望者が後を立たない富士康。
富む者はより富み、貧しい者はより貧しくなる社会で、生きるために過酷な労働を選んだ労働者たち。
富士康の軍事化管理は、その当初の“生きる”という目的さえも忘れさせるのか。
(TechinsightJapan編集部 片倉愛)