米ニュージャージー州在住のある日系女性が、過剰な医療費の減額を求める約7年間の長い交渉が解決に至ったと、現地時間2月16日に地元メディア『NorthJersey.com』が報じた。女性は、心臓にペースメーカーを植え込む手術で3日入院したことに対して、225,187ドル(約3,380万円)もの法外な額を病院から請求されていた。医療請求コンサルタントの支援を受けて、ついに残金の全額免除を病院側から勝ち取ったという。この女性の件に限らず、「アメリカの医療費が高額すぎる」ということは広く知られているが、アメリカの市民は病気やケガをした時にどのようにしているのだろうか。テックインサイト編集部では、在米15年という日本人に米国医療保険の実情について話を聞いた。
何年もの交渉の末に、数十万ドルもの医療費の“全額免除”を勝ち取ったのは、セイコ・バンドウさん(Seiko Bando、65)だ。2016年、当時57歳だったセイコさんは、激しい疲労を感じるようになったため11月2日に健康診断を受けた。そこで心拍数が非常に低いことが判明し、クリニックが手配した救急車で近隣の「クライスト病院(Christ Hospital)」の救急に運ばれた。
「ペースメーカーが必要です」と搬送先で心臓内科医から告げられ、そのまま入院したセイコさんは、翌朝に手術を受けて、次の日には無事に退院した。
5か月後の2017年4月、クライスト病院を運営する医療法人「Care Point Health」から請求書がセイコさんのもとに届いた。請求書には、薬や血液検査から救急室での治療や手術に至るまで、100項目以上がリストアップされ、医療保険から支払われた600ドル(約10万円)を差し引いた224,587ドル(約3,370万円)が請求されていた。
セイコさんは、請求書を手にした時の心境を「あまりにもとんでもない額で、絶対間違いだと思った」と振り返っている。入院中、病院でセイコさんの保険の適用範囲や手術の費用について彼女に話しかける人は誰もいなかったそうだ。
セイコさんの場合、加入していた医療保険プランが限定的な補償内容であるため、保険でカバーされる額がわずかしかなかった。また明細をよく見ると、病院側が手術やペースメーカー代などのほかに、入院中の“経過観察”として1時間あたり2,072ドル(約31万1000円)、総額111,888ドル(約1,680万7000円)という法外な費用を計上していたことも判明した。
セイコさんは、医療請求コンサルタントのエイドリア・グロスさん(Adria Gross)に病院との交渉代行を依頼したが、その道のプロのエイドリアさんでも、減額は難航したという。
地元の政治家、州政府機関、米国労働省などにも働きかけたが、どこも病院の医療費設定に対して権限がなかったからだ。
のちにこの医療法人「Care Point Health」は運営する複数の病院で、セイコさんのケースのように、医療保険の補償範囲から外れる救急部門で高額な請求をするというビジネス手法で何年にもわたって収入を増やしていたことが明らかになった。そして、2019年には州当局の捜査の手が伸びたという。
手術から7年が経ち、セイコさんは今月15日に「Care Point Health」のマーケティング戦略本部長ジャスティン・ドリュー氏(Justin Drew)からのメールで請求が免除されたとの知らせを受け、晴れて巨額の医療負債から逃れることができたが、アメリカでは高額な医療費をめぐるニュースは後を絶たない。
この背景にはアメリカの医療技術の高さと、自由診療で各病院が医療費を設定できるという事情がある。また、各州でそれぞれ保険に関する法律や制度を定めているので、医療費が異なることに加え、民間企業による医療保険はプランが非常に複雑で掛け金も高いため、月々の保険料を安く抑えようとすると補償内容や利用できる医療機関も選択肢が限られることになってしまうという、国民全員が公的医療保険に加入する国民皆保険制度の日本とは全く異質の医療事情がアメリカにはある。
テックインサイト編集部では、アメリカの大手企業に勤める在米15年のサナエさん(53)から、