仕事が成功し子供にも恵まれ、良き伴侶との完璧ともいえる結婚生活を送ってきた女性。しかし14年目にして夫が夫でなくなる日が来てしまった。自分の在り方に悩み続けた夫、夫の変化を受け入れるまでの妻の苦悩、子供たちへの告白…米オレゴン州に住む“トランスファミリー”のこれまでの道のりを『Mirror』『The Independent』など複数メディアが伝えている。
クリスティン・コリアーさん(44歳)が生涯の伴侶となるはずのフレッドさんに出会い、3か月もしないうちに婚約、その年の夏に結婚したのはまだ18歳の時だった。クリスティンさんは若くして仕事にも成功、トリン君(16歳)とサム君(14歳)という2人の子を出産して人生は完璧のように思えた。
ところが2005年、2人目を出産して間もなく実家に子供を連れて帰っていたクリスティンさんに衝撃的な出来事が起こった。自宅で仕事をしていたはずの夫フレッドさんから電話があり「女として生きていきたい」と聞かされ、クリスティンさんの世界は一変した。
実はこの決定的な事実を突き付けられるまで、クリスティンさんにとっては「もしや」というような出来事があったという。お気に入りの赤のドレスの腰部分が不可解に破れていたのを見つけた時に夫が「ごめん、もう二度としないから」と言ったこと、男の汗の臭いがついた自分のネグリジェに気付いた時は「まさか夫に女性としての部分があり、それを出せずに葛藤しているのでは」と思ったが、認めたくない気持ちがありスルーしていたそうだ。
しかしフレッドさんから「もう自分をごまかせない」と伝えられた時、クリスティンさんは「その告白によって自分たち夫婦に何が起こるのか、どんな意味になるのかを夫は理解していないだろうが、もう後戻りができないところまで来てしまった」と感じた。夫のことを男性として愛していたクリスティンさんにとって、この告白は衝撃的で心が折れた。同時に「私は夫のことを何も知らなかった」と感じ、これまでの幸せな生活は嘘だったという思いに激しく苦しんだ。
女装する夫を想像して身震いし、信頼してきた夫に裏切られた気持ちを抱えたクリスティンさんは、なぜ夫が家族にこんな酷いことをするのか理解できなかった。謝られたものの、夫の新しい世界には自分の居場所はないのだと孤独に陥り、恐怖心さえ湧いた。しかし本来の自分である「女性」の部分を夫が出せずにいること彼を追いつめてしまうと思い、愛している夫がどんなふうに変わろうともサポートし続けていくことを決めた。
それ以降、クリスティンさんはネットで“トランスファミリー”について調べ、フレッドさんが女性になるまでにはホルモン治療以外に心理カウンセリングや性別適合手術などが必要と知った。2006年8月、フレッドさんは「性同一性障害」の診断を受け、セーダという女性の名前に変えた。
クリスティンさんは将来のことが不安で仕方なかったが、一緒に暮らしていく中でセーダさんに温かな気持ちを抱くようになっている自分に気付いた。「セーダはフレッドとは異なりますが、それでも過去に恋に落ちた夫と性格上共通する点がいくつかあるんです。でも友人があまりおらず落ちこみがちだった夫とは違いセーダには友人も多く、自分自身が人生を幸せだと感じているところが違いますね」とクリスティンさんは話す。
当時6歳と4歳だった2人の息子にも父親のことを正直に伝えた。まだ幼かった子供たちは意外にも事実を受け入れ「Daddy(ダディ)」の代わりにセーダさんを「Maddy(マディ)」と呼ぶようになったそうだ。家族や友人らにも伝えたところ驚くほどサポートがあり、クリスティンさんの母も「結婚生活が終わってしまったことは残念だけど、あなたの夫は自分らしく生きている今が幸せなんだから」と理解を示してくれたという。