海外への長時間のフライトで、隣の乗客が食事の時間がきても起きず、深々と毛布をかぶりアイマスクを着けたまま深く寝入っていたら、単純に「疲れているのだろう」と思ってしまう。だが時にそれは、機内で急逝したもののその後クルーによって座席に戻された乗客、つまり「死体」であったりもするというから驚きである。
飛行中の機内で体調を崩す人は少なくない。心臓発作を起こして命を落とすことだってある。客室乗務員は研修により救急処置をしっかりと心得ているが、機内に医師がいたとしても助からないケースも多いのだ。ある乗客の死亡が確認された時、彼らが一番に考えなければならないのは、その遺体を乗せたまま他の乗客を動揺させずに静かに目的地を目指すこと。家族などの同行がない単独の搭乗であった場合には、機内ではこんなことが起きているという。
「座席に導いてアイマスクをしていただき、揺れや着陸時のためにシートベルトをセットしたら、首まで深々と毛布をかけてさしあげます。以前はその座席テーブルにウォッカ・トニックをお持ちしていましたが、現在はしていません。他の乗客の皆様にはまるでその方が疲れて、あるいは酔って熟睡しているように見えるでしょう。機内で突然亡くなられた方については、目的地に到着するまでそのように“安置”されます。」
これは英BBCが制作した「ブリティッシュ・エアウェイズ」についてのドキュメンタリー番組において、客室乗務員の育成にあたっている女性教官が暴露してくれた衝撃的事実。そのフライトが満席でない場合は並び席を利用してそれなりの“安置”も可能だが、扉の前の広いスペースは万が一の事態に備えて開けておかなければならず、人の体を横たえるわけにはいかないという。
また死後硬直が始まってしまうと、あの細い折りたたみ式の扉はネックになる。それもあって「トイレに閉じ込めておくなどという失礼なことはしません」とのこと。早い話が座席に戻して“爆睡中”の人を演じてもらい、余裕があれば隣に客室乗務員が座るようにする。他のエアラインでもこれと似たり寄ったりの対応をしているそうだ。見た目の華やかさとは裏腹に、客室乗務員の世界には意外な苦労がつきもの。「初年度の年収は162万円ほどと、うちのエアラインの賃金は安いです」とその女性教官。若くて質の高い客室乗務員を採用・育成することが彼女の使命だそうだ。
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(TechinsightJapan編集部 Joy横手)