シンガーソングライターの椎名林檎が情報番組『ZIP!』のインタビューを受けて、「生意気を持て余した」というデビュー時から成熟した現在まで「勇気を持って生んでいかないといけない」とプライドを持って作り続けた歌への思いを語った。また、彼女の魅力でもあるハスキーな歌声について、実はコンプレックスだったことも明かしている。他にも普段はあまり聞かれない話題が飛び出したが、そこからは椎名林檎が女性から絶大な支持を得るヒントが見えてきた。
1998年5月27日、19歳の時にシングル『幸福論』でデビューした椎名林檎。9月9日に2枚目のシングル『歌舞伎町の女王』を出した頃には、渋谷系をもじった新宿系を名乗った。その楽曲もさることながらパフォーマンスやPVの奇抜さも話題となり、翌年の1999年10月27日にリリースした4枚目のシングル『本能』ではプロモーション活動を“ナース”のコスプレで行って注目を浴びた。『本能』はミリオンセールスを記録する大ヒットとなり、椎名林檎の名がより広く知られていく。
今年でデビュー16周年を迎える椎名林檎へのインタビューが5月30日の『ZIP!』で放送されたが、彼女の口から語られたデビューした頃への感想が意外だった。「若い頃は自分で自分の生意気を持て余していた。生意気過ぎて己が余ってしまい、そんな自分に『こいつ!』と思っていた」という。
番組で入手した、デビュー時の若き椎名林檎が「渋谷系に対して新宿系を名乗った理由とは?」の質問に答えた内容は、次のようなものだ。
「新宿にいる人はみんな人間臭い。生きている自分が嫌だと思ったりしているが、それでもみんな何かを求めて必死で生きている。その見えない真実を追い求めるのが“新宿系”だ。」
若かりし自分の主張を突きつけられた椎名は、「なんだソレ!? 言っていることが全然分からない」と苦笑した。「生意気が先走って、本当の意味が無いんだろうけど一生懸命答えたのだろう」と19歳頃の自分の気持ちを分析している。
2000年3月にリリースした2枚目のアルバム『勝訴ストリップ』は大ヒットとなり、日本ゴールドディスク大賞ロック・アルバム・オブ・ザ・イヤー、第42回日本レコード大賞 ベストアルバム賞を受賞した。アルバムの先行シングル『ギブス』と『罪と罰』もヒットしたが、特に『罪と罰』ではPVでベンツを真っ二つにするシーンが話題となった。
その『罪と罰』でも堪能できる、胸に突き刺さるようなハスキーボイスは椎名林檎の魅力のひとつだろう。ところが彼女自身は子どもの頃からコンプレックスで、今も「好きではない。苦手ですよ」と答えている。母は幼い彼女に「声が悪いから、声に気を遣うのは絶対にやめた方がいい」とアドバイスしたほど、ガラガラ声だったらしい。小さいながらに自分の声が周囲のムードを変えてしまうようで、“時を歪める感じ”が怖くてしゃべらない子どもだったそうだ。
そんな子ども時代を過ごした椎名林檎だが、中学生の時にバンド活動を始めたことで音楽の道を志すようになった。
女子高生のファンが彼女の歌について「女子高生目線で書いているので、すごく伝わってくる」と話すように、その独特な歌詞こそが椎名林檎の最大の魅力なのではないか。
彼女は「女同士でないと、ピンとこないようなことも臆せずに書いていきたい」と歌詞へのこだわりを明かす。そして、「私の楽曲をカラオケで歌うと『(男から)ドン引きされる』と聞くけど、女の子同士だったらそんなことないでしょう」と笑いながら主張する。「そりゃあ、モテる曲じゃないでしょう! “モテ曲”じゃないけど女同士で『あるある』的なものは、勇気を持って生んでいかねばならない。そういうプライドがある」といったこだわりが、歌詞を書く根底にあるのだ。
その歌詞を女性に向けて書いているという彼女は、さらに「女だけがリレーするじゃないですか。母と娘って、女同士だけのすごく大きな使命を請け負っている。地球上の」と椎名林檎の作品の原動力ともいえそうな価値観を語った。
「ロマンティックなことを表面的に言ったり、うんちくをたれたりする殿方とは違って、女ってもっと大きなところでやってんだよね!って思うことあるじゃないですか」と語る彼女。そういうことが入っているような曲があってもいいんじゃないかというから、女性ファンが多いのもうなずける。
5月27日にリリースされた椎名林檎のセルフカバー・アルバム『逆輸入 ~港湾局~』については、「お客さんが、私が人様に曲を書くと『林檎が歌っているのが聴きたい』とおっしゃるので、“いつかは”と思っていたのが今になった」といきさつを説明した。“聴いたよ”という感想だけでも嬉しいという彼女は、「ネガティブなとらえ方でも、全部活力にしたい。その方が次に求めているものを用意できたらと思って、SNSとかも見ちゃう」と明かしている。どこまでもプロフェッショナルだ。
(TechinsightJapan編集部 真紀和泉)