アカデミー賞オリジナル脚本賞を受賞した映画『her/世界でひとつの彼女』で監督と脚本を務めたスパイク・ジョーンズ氏が、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーと初めて顔を合わせ、29日夜、都内でトークイベントを開催した。互いの作品が「大好き」という2人だけに、過去の作品を例に出し、突っ込んだ話をするなど興味深いものとなった。
来日したジョーンズ監督と鈴木氏が登場すると、この日、一般に先駆けて同作を観たばかりの観客が歓声をあげた。
鈴木氏が手がけた作品が大好きというジョーンズ監督は「お話できるのが楽しみです」とにこやかに挨拶。それに対して鈴木氏は「僕は、今、この夏公開の『思い出のマーニー』という映画を作っていますから、本当はここに来ていちゃいけないんですよ。でもスパイクの大ファンなので来ました」と多忙の中、来場したことを告白。互いに対談を待ち焦がれていた様子がうかがえた。
映画『her/世界でひとつの彼女』は、普通の男性がAI(人工知能)と恋をする物語。AI役のスカーレット・ヨハンソンは声だけの出演で、ローマ国際映画祭最優秀女優賞を受賞した。声だけでの受賞は史上初という快挙を成し遂げた。
すでに同作を鑑賞し、以前からスカーレット・ヨハンソンのファンだという鈴木氏は「最初はなんで声だけなんだろう。顔を見せてよと言いたくなった」と不満に思い、「普通の人間がコンピューターと恋をすることができるのかと疑いながら観てましたけどね」と最初は懐疑的だったことを明かしたが、最後まで鑑賞すると感想は一転。「『her』は素晴らしい映画ですよね。(人間とAIの恋が)ちゃんと成立している。僕自身がコンピューターに恋できることをこの映画で体験しました」とジョーンズ監督を称賛した。
続けて鈴木氏は「主人公は常にうだつの上がらない人ですよね。決してヒーローではない。共感を覚えるんですよ」、「(主人公は)社会から置き去りにされている。そういう人が大きな出来事に出会って、世界が変わる。そこがすごく好きなんですよね」とこれまでのジョーンズ氏の作品への印象を語り、「どうしてああいう主人公を選んで映画を作るのか一番質問してみたかったんですよ」と核心に触れた。
それに対してジョーンズ氏は、「もしかしたら自分自身がそういうキャラクターに、より共感するからかもしれませんね。人生はミステリーですから、自分も模索しながら悩みながら生きていますからね。でもジブリ作品ともちょっと似ているかなと思うんですが、たとえば『千と千尋の神隠し』は普通の女の子が別世界に紛れ込んで、いつもとは違う力を発揮しなければならなくなりますよね。似てませんか?」との指摘に、鈴木氏も「ああ、確かに。言われてみればそうかな」と思わず笑った。
さらに鈴木氏は、「これまで長編映画4本でしょ。もっと撮ってくださいよ」とジョーンズ監督にリクエスト。そこでジョーンズ監督が「映画に時間がかかることぐらい鈴木さんもご存じでしょう?」と返すと、鈴木氏も「『風立ちぬ』には5年ぐらいかかりました」と納得せざるを得なかったようだ。
最後に「今日の(作務衣)スタイルも大好きです」とジョーンズ監督に褒められて笑顔を見せた鈴木氏。互いに新しい作品を楽しみに待ち、新作が完成するたびに鑑賞し、リスペクトする日々はこれからも続きそうだ。
映画『her/世界でひとつの彼女』で6月28日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー。
(TechinsightJapan編集部 関原りあん)