エンタがビタミン

writer : maki

【エンタがビタミン♪】佐野元春が名盤ライブ『SOMEDAY』で熱唱。31年の時を越えてアルバム一枚をまるごと再現。

ロックミュージシャン・佐野元春が11月16日に都内で“名盤ライブ『SOMEDAY』”を行った。1982年に彼が発表したアルバム『SOMEDAY』を全曲再現するという試みのライブだが、会場のZepp DiverCityにはリリース当時を知る長年のファンだけでなく後に聴いてファンとなった者まで幅広い年代が集まった。『SOMEDAY』に詰まった11曲を再現するというが、現在の佐野元春がどんなパフォーマンスを披露するのか開演を待つファンたちの期待も高まる。

“名盤ライブ”を主催するエムオン・エンタテインメントはそのコンセプトを「ミュージック・シーンに大きな足跡を残したアルバムをアーティスト自身が全曲再現するライブ企画」と説明する。その主旨を理解して佐野元春が第一弾となるライブを引き受けた。しかし、彼のファンに限らずライブ前にセットリストを知ることを嫌がる者は多い。演奏するのは『SOMEDAY』に収められている曲、そして曲順も同じだと事前に分かったライブを盛り上げるにはアーティスト側も普段とは違った緊張感があるはずだ。

この日の観客には佐野元春と同世代のファンも多く、ライブハウス初体験という者も少なくなかったようだ。拍手や歓声が沸くがなかなかステージが始まらないのにしびれを切らせて「なかなか出てこないわね」、「お産と同じね」と笑いあう女性の会話も耳に入ってきた。そうした中で“名盤ライブ『SOMEDAY』”がどう受け止められるのだろうか。

オーディエンスが待ちわびる中、いよいよ始まったステージは佐野元春らしく洒落た演出もあって一気に盛り上がり、ロックンロールでポップなナンバーの数々を全力で熱唱すると、会場も手拍子と歓声で熱気に包まれていく。そして6曲目にアルバムのタイトルチューン『SOMEDAY』を歌い出すと、盛り上がる中にも荘厳な空気が漂ったほどだ。

『SOMEDAY』を歌い終えると、理由あって小休止を挟んだものの、その他はパンチの効いた短いMCだけだ。ほとんどノンストップで歌い続けると『Vanity Factory』、『Rock&Roll Night』で最高潮に達した。最後はアルバムどおりに『サンチャイルドは僕の友達』でクールダウンして“名盤ライブ”を終えた。だが、佐野元春がそれで終わるはずも無く、ステージはファン感涙のアンコールへと突入していったのである。

デビュー当時の佐野元春は洗練された音楽性やライブパフォーマンスで注目されながらも大ヒットに恵まれなかった。彼が3枚目のアルバム『SOMEDAY』を作るときは“背水の陣”の思いだったといわれている。当時の佐野元春の全てが注がれたこのアルバムを31年ぶりに再現した“名盤ライブ”は彼の歌やバンドメンバーのサウンドが熟練した分、今の『SOMEDAY』として心に突き刺さるものがあった。

1982年に発表されたアルバム『SOMEDAY』

1982年にアルバム『SOMEDAY』を発表した彼は、5年後の1987年に熊本県阿蘇で行われたオールナイトのロックフェスティバルに出演した。今年そのライブを映画化した『ベイビー大丈夫かっ BEATCHILD 1987』が先月末に公開された。映画の中で佐野元春のリハーサル場面が映る。彼はギターとベースのメンバーとマイクで「Hey!」「Hey!」「Hey!」と掛け合うところを何度も何度も繰り返してチェックしていたのが印象的だ。長いステージの中でほんのワンフレーズにそこまでこだわる彼の姿勢はその頃から今まで一切ブレていない。

ロックフェス『BEATCHILD』は豪華な出演アーティストとおよそ7万人の観客が集まることで当時としても注目された。しかし、それ以上に本番当日に豪雨に見舞われて過酷なライブとなったことで歴史に残るものとなった。トリを務めたのは佐野元春だ。関係者によるとステージ前に会場を見た彼は、雨具を着て豪雨に耐える観客の姿に「みんな僕を待って入れくれたんだ」と力を込めたという。彼がステージに立って歌いだすと雨足が弱まり、空も明るくなってきた。陽が差して観客も熱気を取り戻した時、阿蘇の大自然に響き渡っていたのは『SOMEDAY』だった。

その頃から日本のロック界を牽引してきた佐野元春が今もなお変わらぬどころか、進化した『SOMEDAY』を披露してくれるのだから感慨深いものがある。もしかすると、彼も31年前の自分に負けていないか試してみようと“名盤ライブ”を引き受けたのかもしれない。

”名盤ライブ『SOMEDAY』”は大阪公演も予定されている。11月24日に大阪・堂島リバーフォーラムで第1回(OPEN 15:00 /START 16:00)、第2回(OPEN 19:00 /START 20:00)の開催予定となっている。

また、このライブの模様が2014年1月にMUSIC ON! TV (エムオン!)でオンエアされる予定だ。詳細はMUSIC ON! TVホームページ(http://www.m-on.jp/)にて。
(TechinsightJapan編集部 真紀和泉)