アイドルグループAKB48の松井咲子が、新年の特番『芸能界特技王決定戦TEPPEN』で初挑戦にして優勝を勝ち取った。3冠を狙う天才肌、さゆりや強敵、森崎友紀を相手にTEPPENを取るには“魔物”と呼ばれる独特な会場の緊張感と戦う必要があった。
お正月恒例となった番組『芸能界特技王決定戦TEPPEN』(フジテレビ系)が1月7日に放送された。今回で3回目となる同番組でも人気のあるのがピアノ部門だ。中でも注目されるのが、過去2度にわたりTEPPENを取ったお笑い芸人のさゆり(かつみ・さゆり)だろう。彼女は高校3年の時に音大に入ることを思い立ち、たった2か月間の勉強で難関を突破した『天才肌』である。
そして今回の見どころとなったのが、初挑戦したAKB48松井咲子だった。彼女は東京音大ピアノ科に通う現役音大生で、さゆりへの刺客として演奏順番も最後に当てられていたのだ。
他にもピアノ歴16年の岡本玲、中学生にしてピアノ講師レベルだったという料理研究家の森崎友紀、自分の美の表現方法としてクラシック、特にショパンを愛す華道家の假屋崎省吾が挑戦した。
勝負はこれまでクラシックを弾いて2冠を取ったさゆりが、今回「クラシックを封印して“J-POPで3冠取ってこそTEPPEN”と自分に課します」と宣言したことから、戦いは意外な展開となったのである。
一番手の岡本玲が笑みを見せながら「ロマンスの神様」(広瀬香美)を演奏するが、終了すると彼女は「ここの会場には魔物が棲んでますね。びっくりしました!」と緊張のあまり指が止まった感じがしたことを明かしたのだ。さゆりもそれに対して「私も魔物にあったことがあるのでよく分かります」と共感していた。
そのさゆりがピンク・レディーの「サウスポー」を弾き始めると、なんと親指がつって演奏を中断、弾きなおすという大会史上初めての事態となった。審査員のオペラ歌手、中島啓江が「この緊張の中で弾きなおすなんて、悲しくなってお母さんみたいな気持ち」と心境を明かしながらも、「音楽は前に流れている。止まったことには変わりない」と音楽の本質を語ったのが印象的だった。
審査員から入った得点は岡本玲が73点、さゆりが65点となりまさかの2冠王さゆりが敗退するという大方の予想を覆す結果となったのである。
その後も接戦が続き森崎友紀が「First Love」(宇多田ヒカル)を大胆なアレンジで迫力ある演奏を披露すると、82点の高得点を出してそのまま優勝かと思われた。
今回唯一クラシックの楽曲「ノクターン」(ショパン)で挑戦した假屋崎省吾も善戦して80点と迫ったが、やはり森崎の演奏は印象に残った。
そこに最終挑戦者として登場したのが、AKB48の松井咲子だ。繰り広げられた熱戦によりこの段階での会場の緊張感は息苦しいほどだった。応援に駆けつけたフレンチ・キスのメンバーから柏木由紀が「ライブとかでも演奏するので、ピアノのうまさはメンバーやファンも知っています。緊張がなければTEPPENになれると思う」と声援を送った。
グランドピアノを挟んで正面から森崎友紀が見つめる状態で、緊張という“魔物”ヘ向かい松井咲子が弾いたのはEvery Little Thingの「Time goes by」だった。なめらかなメロディーラインは心地よかったが、わずかながらも素人耳にも分かるミスタッチがあったことで勝負の行方が全く予想できなかったのだ。松井も演奏後に「ミスタッチもあったけど、後悔はしてません。弾いていて気持ちが良かったです」と心境を語っていた。
だが、審査員の中島啓江は「他の人と違って生音が良く響いていた」と感心しており、秦万里子(歌手、ピアニスト)からは「弦のどこをどう叩いたらどんな音が出るのか分かって弾いている」といった高度な内容のコメントがあり好感触だったのである。結果的に松井は得点86点を叩き出して森崎友紀を破り、ついにTEPPENを取ったのだ。
彼女の松井咲子オフィシャルブログ『さきっciao』には早速、読者から「テッペンおめでとう。これからはテッペン師匠だね」などの祝福や「ピアノうますぎる」、「音は演奏する人の人柄がでますが、繊細でかつ力強さもあり感動しました」などのコメントが届いている。中には「今度はAKBの曲を作曲編曲してみたらどうでしょう」という声もあった。
松井咲子は昨年の7月にAKBの冠番組『なるほど!ハイスクール』で「空き瓶を使って『ウィリアム・テル序曲』を自動演奏する」企画にメンバーたちと挑戦したことがある。この時はピアノではなく音階を作りあげる複雑で根気の要る作業で、見事なリーダーシップを発揮したのだ。
音大生として音楽に長けているだけでは、このような采配やTEPPENを取ることはできないはずだ。今回、松井咲子がTEPPENでの戦いで見せた緊張という“魔物”を克服するガッツこそがそれを可能にしたのではないだろうか。
(TechinsightJapan編集部 真紀和泉)