海底地図って、誰がどうやって作ったんだろうとか、鍾乳洞を最初に発見した人は誰だろうと想像をめぐらせたことは、きっと、誰しも一度はあるに違いない。誰も足を踏み入れたことのない未知の世界を探検するには好奇心以上に、勇気と体力が必要だ。そのような世界の自然発見に貢献してきたフランス人の洞窟潜水探検家が、アルデシュ県の海底洞窟を探検中に崩落事故に遭い、夢半ばにしてこの世を去ってしまった。
崩落現場から70m、洞窟の入り口から780mの場所で、45歳の洞窟探検家は息を引き取った。その分野で世界的にも有名だった彼が、難度の高いゾーンの水中洞窟で行方不明になったというニュースを受けて、ヨーロッパ各国からボランティアの洞窟潜水探検家が集まった。一般の地上での救出とは違って、水中洞窟では、特別な技術と知識を必要とするため、消防署や警察ではなく、探検家がボランティアとなって、行方不明者の捜索をするのである。
救助で潜ったボランティアの英国人2人が事故発生から8日後、また、壁伝いに生存のシグナルを受けたと思われてからわずか数時間後に、彼の遺体を発見したのである。救出が1分1秒を争う時間との闘いとはまさにこのようなことであるとその日、フランスのメディアは伝えた。残された家族や友達、救助に来ていた人達にも、悔いが残って止まないのではないだろうかと。しかし、現実は違っていたのだ。彼が事故当時に所持していた水中パソコンをその後調べたところによると、事故2時間後に彼は既に溺れ死んでいたと、17日日曜日に報告されたのである。
この壁伝いの生存シグナルはその当時、メディアでも彼自身と報道されていた。それは、捜索を開始してからちょうど1週間が経った時、地下のある特定の壁からコンコンというノックが聞こえた。そこは反対側から、そのゾーンの水中の洞窟の地図を作るために潜っていた彼が、洞窟を潜っている際、土砂崩れにあって、押し流された場所と想定できた。おそらく、その部分だけ、水位が下がっていて唯一避難できる場所だったに違いないと捜索隊は思ったのである。ちなみにそのノックの音は、閉じ込められた彼が救いの手を求めているものだったと言う。というのも、捜索隊が2回叩くと「コン」と1回の返事、探検家の緊急合図に使われているこの「ノック」での会話で、SOSの合図を送るとまた「コン」と1回の返事。間違いなく彼が壁の向こう側にいると確信した救助隊。もう少しで助けに行くから頑張ってくれという願いも虚しく、その数時間後に彼は水死体で発見された。現実には彼はその時点で既に亡くなっていたということを知ると、そのノックの相手は一体誰だったのだろうかと疑問が残る。その答えを知っている人は誰もいない。
チリの鉱山落盤事故で2ヶ月以上も地下約700mの場所に閉じ込められていた33人の作業員が全員無事に救出されたニュースは、世界中の人々に、どんな境遇でも希望を持つことの大切さと生命の尊さを教えてくれた。フランスでは、8日間行方不明になっていた洞窟探検家が同じ週に残念ながら水死体で見つかってしまったのである。空の見えない地下で1人で救助を待つ心細さ、酸素が足りなくなる危険、ゴールのない迷路をさまよう絶望感、家族との別れなど、この探検家が命を絶つまでの2時間、どのような気持ちでいたのかと考えると胸が痛くなる。
そもそも、洞窟探検家や洞窟潜水探検家は、誰もが簡単になれるというわけではなく、洞窟の調査や探検をするには、各国で研究されて世界的に統一された基礎知識や技術を学び、測量図がありライン整備のされたケイブシステムなどで訓練を積み重ねた技術者のみが認められる。さらに精神力、専門的な知識と技術、特殊な器材、鍛え上げられた肉体が必要とされるのは当然のこと、時には、ドライケイビングやクライミング、登山などの技術も必要になる。つまりここで言う探険とは、しっかりと計画、計算された状態においてのみ可能であり無謀な冒険とは全く異なり、事故は防げなかったのであるという。
洞窟潜水で得たデータを基にして、各種専門分野の学者と共に調査活動を行なっている彼らの努力のおかげで、今までに数々の鍾乳洞や洞窟が発見され、一般に公開されるようになった。しかし、彼らの探検は常に危険と隣り合わせなのである。
(TechinsightJapan編集部 福山葉月)