爽やかな若者を演じることが多い妻夫木聡。昨年のNHK大河ドラマ「天地人」では、「愛」の文字を兜に掲げた誠実な人柄の直江兼続を演じたことから、幅広い年齢層に誠実なイメージが固定されたのではないだろうか。そんな彼が自ら望んだのが映画「悪人」の主人公である。役者として新しい境地を開こうとする妻夫木が、過去に抱いた挫折感について語った。
9月11日公開の映画「悪人」は、監督が「フラガール」の李相日氏、脚本は原作者の吉田修一氏自ら手がけた作品である。その主人公である連続殺人犯を演じるのが妻夫木聡だ。「愛の人」直江兼続から「悪人」と幅広く演じ分ける演技派の彼にも、「調子に乗っていた」過去があるという。そんな逸話を9月5日放送の「Mr.サンデー」で披露した。
司会の宮根誠司とともに縁日をまわり、金魚すくいや風船釣りに興じたあと、氷川神社の境内にて行われたインタビューだった。若いうちから注目されて順調に進んできたように見える妻夫木だが、大きな挫折感を抱いたことが何回かあると語った。
そのひとつは高校時代。すでにストリートファッション雑誌で注目されていた妻夫木は、「かなり調子に乗っていた、いやなヤツだった」と、当時の自分を振り返った。彼がそのことに気づいたのは親友と思っていた友達から「おまえのことなんか、誰も信用してない」と罵られた時だった。あまりの言葉に怒りもわかずに、泣きだしてしまったという妻夫木。自分が一人だったこと、みんなに嫌われていたことを強く感じて、悲しみでいっぱいになってしまったそうだ。だが、今となっては、そのことに気づかせてくれた友人に感謝している、と言う。
そしてもうひとつは、俳優になって間もない頃である。それまで俳優なんて仕事は誰でもできる、と思っていたという妻夫木。だから初めて芝居をしたときは、思うように演技ができなくて、自分はカスだと情けなくて相当落ち込んだそうである。そのようにつらい思いをしても「俳優をやめたいと思ったことはない」と言う。俳優業の魅力にとりつかれた彼には、むしろつらい思いがバネになったのだ。
「悪人」では、今までとは違って役に「なりきる」のではなく「なる」というスタンスで臨んだという。撮影中はなるべく人との交流を避け、孤独な状況に自らを追い込み、連続殺人犯である主人公になろうとした。映画のプロモーション映像で見る彼は暗い瞳が印象的であるが、インタビューの間はその暗い表情から一転して、大役を演じ切った喜びにあふれているような明るい笑顔だった妻夫木。渾身の一作に期待である。
(TechinsightJapan編集部 大藪春美)