非日常の世界であるだけに、ユニークな話題が飛び出すことも多い法廷という場所。米ノースカロライナ州では今、人情に厚いある判事が下した意外な決断が人々の大きな関心を集めているもようだ。
飲酒運転につき逮捕され、その後もアルコール依存の改善がみられないことから、2週間おきにノースカロライナ州カンバーランド郡地方裁判所への出廷を命じられたジョゼフ・セルナ被告。そして、4月13日に「このような人物を裁かなければならないのは本当に残念だ」と感じながら法廷入りしたのは、ルー・オリベラ判事。2人は退役軍人同士であった。
被告のセルナはアフガニスタンに4回も赴くなど、約20年も米・陸軍特殊部隊「グリーンベレー」の一員として活躍した帰還兵であった。戦地では道路脇に仕掛けられた即席爆破装置(IED)や自爆攻撃によって死にかけたことが3度もあり、2008年にはカンダハールのある運河で4人が乗った装甲車がスタックし、浸水する中をなんとか脱出して唯一生き残ったことも伝えられていた。
ノースカロライナ州のメディア『WTVD』によれば、帰国後のセルナは勇敢な戦いぶりにいくつもの勲章を授与されているが、その中には名誉の負傷を遂げた兵士らへの「パープルハート章(Purple Heart)」が3つもあるとのこと。そうした数々の恐怖の思い出が心的外傷後ストレス障害(PTSD)となって彼を苦しめ、ほかの多くの帰還兵がそうであるように彼も睡眠や精神の安定のためアルコールや薬物の力を借りるようになっていったという。
しかし犯した罪に対しては公平な気持ちで裁かなければならない。裁判所に命じられたアルコール依存症治療プラグラムを何度受講しても酒を断ちきれない上、検尿の結果についても虚偽申告していた被告人には24時間の実刑判決を言い渡すしかなかった。震えている被告に居てもたってもいられなくなったオリベラ判事は、夜になるとPTSDに苦しめられるという被告にお供することを決意したという。
隣の郡の刑務所にて独房に収監されたセルナはポツンと簡易ベッドに座っていたが、突然その鉄格子が開かれオリベラも中に。こうして2人はあれこれと語り合いながら夜を明かしたそうだ。出所後のセルナは同州のメディア『WRAL』に、「戦場での思い出を語り尽くしました。とても個人的なことばかりで、ひょっとしたら父と息子の会話よりも濃いものだったかもしれません」と語っている。
出典:http://www.stripes.com
(TechinsightJapan編集部 Joy横手)