人口2億5千万のインドネシアには精神科病院が48棟しか存在せず、都市ばかりに集中している。治療を受けられないおよそ1万9千人の精神疾患者は、不衛生な狭い施設に隔離され足首に鎖をはめられているのが現状だ。英メディア『dailymail.co.uk』が伝えている。
インドネシアの地方では、精神科病棟がない代わりに「信仰療法センター(faith healing centre)」と呼ばれる小さな施設があり、家族だけでは手に負えなくなった患者が送り込まれる。そこでは40年にわたり、患者を鎖でつないで狭い部屋に監禁するという違法な治療が行われてきた。“精神疾患者には悪霊が取りついている”と信じる傾向は地方ほど強く、精神疾患に関する知識はほとんどないに等しい。施設で働く職員は「他にどんな方法があるというのですか。鎖で拘束することで患者の安全が守られるのです」と語る。
ニューヨークに本部をおく国際的な人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch)」で障害者の権利について研究しているKriti Sharmaさんは、インドネシアにおける精神疾患者の現状を“生き地獄”と表現する。
ジャワ島中部ブレベス近郊の信仰療法センターにやってきて2年になるという男性は、一日の大半を木のベンチの上で過ごす。男性の足は鎖につながれたままだ。隣のベンチの男性も鎖でつながれ、排泄物は垂れ流すほかなく狭い部屋には悪臭が漂う。患者に施されるのはハーブを調合した薬と祈祷師の祈りのみだ。精神疾患に必要とされる薬の処方や心のケアが行われることはない。
同じくブレベス近郊で25歳の娘が精神疾患者という家族は信仰療法センターを避け、2年間娘を自宅で監禁し世話をしてきた。しかし3日前に娘が逃げ出し近所とトラブルになったため、現在は山羊舎の一角に閉じ込めているという。女性の母親は一時的な処置だと主張するが、娘が山羊舎から出られるのはトイレの時だけ。今後どうするかは決まっていない。
東ジャワ州ポノロゴに住む女性も、家族によって自宅の裏に設置したコンクリートの小部屋に押し込められ、一日中そこから出ることはない。彼女の足は壁に鎖でつながれており、食事や睡眠、排泄もすべてむき出しのコンクリートの上で済ますという。
インドネシアでは「精神疾患者は監禁しないとトラブルになる」という考えが根強い。保健省は地方における劣悪な施設の実態を把握してはいるものの、治療環境の整備には時間がかかるとしている。
出典:http://www.dailymail.co.uk
(TechinsightJapan編集部 A.C.)