デング熱撲滅の第一歩として開発された遺伝子組み換えされた蚊。蚊を生殖させないことで種を全滅できるのではと期待されてきたが…。『theantimedia.org』が伝えている。
中南米だけでなく、アメリカやカナダでも猛威を振るっているジカ熱。今回このジカ熱と関係が指摘されているのは、英国のバイオテクノロジー企業「オキシテック(Oxitec)」社がデング熱を媒介する蚊を駆除するために開発した「OX513A(遺伝子が組み換えされた雄の蚊)」の放出である。このOX513Aと雌が交配して生まれた蚊は、成虫になる前に死ぬように遺伝子がプログラムされており、熱帯病の流行を抑える秘密兵器として期待されていた。このたびのジカ熱もデング熱の原因となったネッタイシマカによってもたらされている。
しかしながら、研究者のあいだではOX513Aの広範囲な使用に関して懸念する声が早くからあがっていた。遺伝学専門のリカルド・スタインブレカー博士は、2010年9月の段階で「遺伝子を組み替えても3~4%の蚊は何らかの形で生き残る。この生き残った蚊が生態系にどのような影響を及ぼすのかさらに詳しい調査が必要である」と指摘していた。だが意見は反映されることなく、遺伝子組み換えされた蚊の放出が許可されてしまった。
オキシテック社がブラジル北東部ジュアゼイロにOX513Aを放つ実験を行ってからすぐの2015年7月の報告では「最初の数か月でデングウイルスを持つ蚊の地域個体群が95%以上減少した」としていた。しかし、このOX513Aが放出された地域こそジカ熱が蔓延した地域と重なるのだ。ブラジル保健省によると、2015年10月以降だけでブラジル北東部では「小頭症」と呼ばれる胎児の先天性の疾患が4000件以上確認されており、現在ブラジル全土での感染者は150万人に上ると発表。アフリカで1万1000人が死亡したエボラ出血熱を超える脅威になりかねないとしている。
最近、米バイオ技術開発イントレクソン社によって買収されたオキシテック社であるが、OX513Aに関しての報告では「これまでにブラジル北東部とケイマン諸島で放出したが、安全で環境に優しい」としておりジカ熱との因果関係を否定している。ジカ熱の有効なワクチンの開発が急がれるのはもちろんだが、熱帯病を撲滅させるはずのOX513Aが新たな危機を生み出しているのが事実であれば、事態の早急な解明が必要なことは言うまでもない。
出典:http://theantimedia.org
(TechinsightJapan編集部 A.C.)