世界中に存在する歴史的作品には、まだまだ深い謎に包まれたものが多い。誰が、何のために、いつの時代に作ったものなのか。さらにはいつ、誰の手によって発見されたのか。科学が発展した現代の技術をもってしても解らないことばかりだ。しかし、どの作品にも必ず歴史上の背景が存在するはず。今回はそんな謎に包まれた歴史的作品の中から、都内で開催中の「大英博物館展―100のモノが語る世界の歴史」のために来日している興味深い3つの作品についてご紹介したい。
まずは、映画『ハリー・ポッターと賢者の石』をご覧になった人なら思い出すであろう「ルイス島のチェス駒」。おそらく12世紀頃に作られ、世界最古のチェス駒と言われる同作品は、スコットランドのルイス島で発見された。このチェス駒の特徴は合計78個のうち主要駒が魅力的な人型であるということ。キングは剣を膝に置いたり、ナイトは馬に跨っていたり、また表情も面白い。一部の駒はもともと赤く色が塗られていたので、ゲームは現在認知されている黒と白ではなく、赤と白の駒で行われていたようだ。これらのユニークな駒は『ハリー・ポッター』の世界に小道具としてぴったりマッチしていた。
次に、考古学者のレオナード・ウーリーが1920年代に発見した「ウルのスタンダード」。ウルとは古代メソピタミアにあったシュメール人の都市名で現在のイラク南部に位置する。「ウルのスタンダード」は、ウーリーが発掘したいくつかの王家の墓のうち、最大のものから発見された。「ウルのスタンダード」の箱の表裏には二つの場面が描かれている。片面にはウルの兵士たちの戦争の場面、そしてもう片面には平和の場面だ。戦争場面はシュメール軍を描いた最古の図の一つである。平和場面では、王を中心に酒盃を上げ・家畜を引き・農耕する様子などが描かれている。「ウルのスタンダード」の呼び名は、発掘したウーリーが「儀仗旗(スタンダード)のように戦場で掲げられたのではないか」と指摘したところから来ている。現在もこの名称は使われ続けているが、本来の用途は判明していない。高さ22センチ、幅50センチの小さな箱でありながら躍動感と上品な色彩の「ウルのスタンダード」は未だ解明されていない時代の一端を探る手掛かりになるのだろうか。
最後は、映画『ナイトミュージアム エジプト王の秘密』にも登場した「柿右衛門の象」。耳と長い鼻を見れば象であると認識できるが、日本の陶工は一度も生きた象を見ずに想像から作ったとされている。おそらくヨーロッパ人の好みを念頭に置いて「柿右衛門の象」は作られたのだろう。象の体は綺麗な乳白色。その上を青・赤・黄色で装飾された柿右衛門カラー。想像の産物が作り出した象のため、一般的に象の色とされる灰色ではなくこの配色になったのではないか。この「柿右衛門の象」はヨーロッパ人の好みを意識しながらも、目元は東洋人を思わせる。なんとも不思議な象だ。
これら歴史的3作品は通常はイギリス・ロンドンにある大英博物館で展示されているが、2015年4月18日(土)~6月28日(日)の日程で東京都美術館で開催中の「大英博物館展―100のモノが語る世界の歴史」で見ることができる。同展は、大英博物館が所蔵する約700万点の中から、厳選された100の作品を紹介しており、今回のために特別に制作された有名な「ロゼッタ・ストーン」の原寸レプリカなど、貴重な作品の数々が展示される。
選ばれた100の作品たちは、あなたを歴史の謎に導き、その好奇心を掻き立て、深い感動と発見を与えてくれるだろう。
■『大英博物館展―100のモノが語る世界の歴史』 http://www.history100.jp/
(TechinsightJapan編集部 平原はづき)