遺伝子操作や体外受精の進歩の中で高まっていた、「その技術により母系遺伝の難病を子に継がせない」という考え方。世界に先駆けてそれを承認しようとしていたのがイギリス。下院が承認したことを先にお伝えしていたが、ついに上院からもゴーサインが出たもようだ。
母親のミトコンドリアに変異がある場合、そこに問題のない女性がドナーとして協力し、“男1名+女2名”の3人から健康な受精卵を作ることになる。ドナーの卵子から核を取り除き、母親の卵子から抜き取った核をそこに組み合わせ、精子を受け止めた卵を母親の子宮に着床させる。つまり核DNAは両親のもので、ミトコンドリアDNAだけはドナーの健康なものが使用されるわけだ。
産科および遺伝学の医師にとって、遺伝性の難病をかかえた人々の「子供に病を継がせるわけにはいかない」という苦悩は大きな問題であった。一方で遺伝子操作と体外受精の技術は進歩し、ミトコンドリアDNAの移植操作を伴う体外受精を行えば母系遺伝子由来の難病を子が受け継ぐリスクを有意に低下させることは可能となっていたが、そこに倫理の壁が厚く立ちはだかっていた。
その突破口となったのは、英タインアンドウィア州サンダーランドでシャロン・ベルナルディさんという女性が7人の子を産むも、全員が「ミトコンドリア病」で亡くなってしまったこと。責任遺伝子が母親由来という10万人に10人前後の発症がある難病で、有識者らはこれをきっかけに「シャロンさんのような悲運な人々を救うことに遺伝子操作の技術は活かされるべき」と叫ぶようになったのである。
ミトコンドリアDNAの操作行為を合法とするか否かについては、今月上旬にキャメロン首相も「遺伝を恐れて子作りを諦めていた人々にも明るい光を」と述べる中、英下院は賛成票382、反対票128で承認。そして24日、上院もこれを賛成多数で承認した。世界に先駆け、イギリスでは来年からそうした体外受精が150件ほど行われるものとみられている。
※ 画像はbbc.comのスクリーンショット。
(TechinsightJapan編集部 Joy横手)