向井理主演の『ハングリー!』(フジテレビ系)が最終回を迎えた。この1時間前に放送されている『ストロベリーナイト』には視聴率では水をあけられていたが、今クールの連ドラ陣では意外にも上位に食い込む健闘ぶりを見せた結果となった。
脚本は『ランチの女王』、『カバチタレ!』などの大森美香。一言で言うなら『ハングリー!』はまさに男性版『ランチの女王』のようなドラマだ。
ロックバンドでデビューする夢に破れた山手英介(向井)。フランス料理店のシェフをしていた母・華子(片平なぎさ)の急死により、店を麻生時男(稲垣吾郎)に買収され失ってしまう。母親の店を守るためにも、英介は自らフランス料理のシェフになり店を構えることを決意する。
バンドメンバーだった住吉賢太(塚本高史)と藤沢剛(川畑要・CHEMISTRY)らとともに父・太朗(大杉漣)のアトリエを改装し、店をオープン。はじめはなかなか上手くいかなかったが、少しずつ客も増えていく。麻生との料理対決で店の名前を奪われたり、恋人である橘まりあ(国仲涼子)との関係がぎくしゃくするなど、様々な困難に立ち向かいながら、人々を料理で笑顔にすることに喜びを感じるようになっていく。
そんな主人公・英介を演じる向井のぶっきらぼうな演技が雑に見え、毎回違和感を覚えた。口下手で不器用な部分を隠すようにぶっきらぼうになる英介に対し、ただ、語尾を荒げているだけのようにしか思えなかった。ドラマ内の料理は全て向井自身が作っているということだが、今回はもう少しその熱意を英介としての演技に回して欲しかったように思う。
そしてもう一人、英介の料理に惚れ込んで、そのまま英介自身も好きになってしまう大学生・大楠千絵役の瀧本美織だ。千絵のクレヨンしんちゃんのしんのすけのような起伏のない話し方は演技なのかと毎回思っていたのだが、彼女が出演するソニー損保のCMを見る限りそうではないことが分かった。等身大の女の子を演じるという意図であえてそうしたのなら、ヒロイン役としては中途半端だったように思う。英介の恋人・まりあと対極のキャラクターにしても、もっと鈍臭くするなど、振れ幅を振り切ってしまっても良かったのではないか。
ただ、英介とライバル関係にあった麻生を演じた稲垣は違った。麻生の英介に対する態度が回を増すごとに、グレーゾーンに近付いていく。その素振りや意味深なセリフには毎回驚かされた。エリートで鼻につく上から目線の麻生の話し方に、英介とともに怒りを覚えることも多かった。何より、稲垣自身がそんな鼻につく麻生を楽しんで演じているのが伝わってきた。彼がいたから、このドラマが引き締まったのだ。
このように、出演者に対し何らかの違和感を覚えながらも、なぜか毎週見ずにはいられなかった。やはり分かりやすく軽快な大森の脚本のおかげだろうか。彼女のストーリーやキャラクターも分かりやすい設定が視聴者を惹きつける。何より、女性の気持ちの描写がとても上手い。瀧本自身は先に書いた通りなのだが、千絵の感情は少女漫画のような夢見がちな面もあるが、とても丁寧に描かれていた。
稲垣の絶妙な演技、そして軽快な脚本。意外なほどの健闘を見せた勝因はここにあったのかもしれない。
(TechinsightJapan編集部 洋梨りんご)