映画『バットマン』シリーズなどで知られる英俳優クリスチャン・ベール(37)が、南京虐殺を描いた新作映画のPRのため訪れていた中国で、米『CNN』ニュースのクルーと共に人権活動家のもとへ面会に向かったが、監視役の警備当局に手荒に追い返されていたことが分かった。
気が短いことで知られ、暴行容疑で逮捕されたこともあるクリスチャンだが、このほど訪れた中国では、反対に思わぬ手荒な扱いを受けることとなった。
クリスチャンはチャン・イーモウ監督の新作映画『The Flowers of War(原題)』に、「旧日本軍の残忍な行為から、中国人の少女や売春婦を守ることになった米国人」役で出演しているが、11日には北京でプレミアに参加。その後、自宅軟禁下に置かれている盲目の人権活動家、陳光誠氏を訪れるという目的のもと、米『CNN』のクルーを伴って、北京から車で8時間の山東省にある臨沂村へ向かっていた。
陳氏は弁護士として、中国の「一人っ子政策」の名の下に、山東省で数千人に及ぶ女性に対し避妊手術や中絶が不法に強要されていた事実を『TIME』誌などに告発したことで知られている。その結果、15か月間にわたって自宅軟禁されている。
「陳氏に会い、インスピレーションを与えてくれことを感謝したかった」と面会を希望した理由を語るクリスチャン。しかし、彼とクルーが陳氏の家に近づくと、「帰れ」と平服の警備員が叫び、カメラクルーにチェックポイントに戻るように指示してきた。クリスチャンが「どうして彼を訪問してはいけないのか?」と英語で話しかけると、人民開放軍と同じ濃い緑色のコート姿の警備員がさらに沢山押し寄せて来て、彼を乱暴に押しのけたという。
CNNはこの一部始終をカメラに収録しており、ニュース番組の中で放送した。ビデオでは、同行していたリポーターが「私達は平和的にこの場を離れようとしているんですが、警備員がクリスチャンを押しのけています。」と現場を実況。その場を何とか逃れ、クルーは乗って来た車で走り去ろうとしたが、なおもこの警備員達の車が約40分にわたって執拗に追いかけて来るという恐ろしさだった。クリスチャンはこの経験について、「(彼らを押しのけてまで)陳氏と面会する勇気がなくなってきた。」とかなり弱気になってしまったようだ。
映画は16日から中国で、23日から欧米の一部都市でも公開されるが、製作費9000万ドル(約70億円)をかけた「中国映画史上最も高額な」作品で2時間半にわたる大作。国民の反日感情を利用して国家の団結を高めるため、中国共産党政府が好んで使うテーマだと評される「南京虐殺」を、旧日本軍兵士による強姦や殺人のシーンに満ちた描写で描いている。
プレミアでの会見で出た「この映画は中国政府のプロパガンダでは?」との質問に、クリスチャンは「この作品にそのような表現を使う人は間違っている。」と反論していた。しかしその当人も、陳氏への訪問の際に受けた手荒い警備員達のふるまいに、「中国政府の闇の部分」を目の当たりにしたことになる。『The Flowers of War』を必死で宣伝しようとしている中国政府にとっても、クリスチャンが陳氏の警備員に押しのけられるビデオは、決して報道されたくなかったものに違いない。
(TechinsightJapan編集部 ブローン菜美)