映画『ボーイズ・ドント・クライ』と『ミリオンダラー・ベイビー』で、2度オスカー主演女優賞を受賞したヒラリー・スワンク(37)が今月5日、ロシア南部のチェチェン共和国で、ラムザン・カディロフ首長の誕生日を祝うための式典に招かれ出席した。しかし、欧米の人権団体はカディロフ首長が拷問、拉致や処刑などを行って来た人権侵害者であると批判しており、ヒラリー自身もこのほど、式典に参加したことを「深く後悔している」とコメントを出した。
この式典はチェチェン共和国の首都グロズヌイで開催されたもので、表向きは居住用と商業用の高層ビル・コンプレックス『グロズヌイ・シティ』の完成を祝うためだったが、実際はカディロフ首長の35歳の誕生日を祝うためのコンサートであったという。カディロフ氏は07年にロシアのプーチン大統領から首長に任命されて以降、チェチェン独立派武装勢力を残虐な手口で制圧。自ら電気ショックで拷問を行うなどして反対勢力を抹殺し続けて来たが、行状は全て「政治ライバルによるでっちあげ」だと否定してきた。
ヒラリーの代理人によると、彼女が式典に出席を決めたのは、先方から招待を受けたことに加え「同ビル建設プロジェクトが、ロシアからの独立を巡って繰り広げられて来た紛争の結果破壊されたチェチェンを再建し、人々に希望を与えるものであると説明を受けたため。」だという。招待状には、首長の誕生日については言及されていなかった。
しかしもちろんカディロフ政権側は、米オスカー女優を式典に招くことで、自らの権力を誇示したかったようだ。ヒラリーは到着と同時に、「首長のために、式典でバースデーを祝ってくれないか?」と尋ねられた。そこで「失礼なことをするわけには行かず、義務的に」首長のバースデーを祝った。舞台上に招かれた彼女は会場を埋め尽くした聴衆を前に「グロズヌイに来たのは初めてだけど、とても美しい街。いつかここで映画を撮りたいわ。」「首長、誕生日おめでとうございます。」などとコメント。出席によってヒラリーが受け取ったギャラは、米ドルで6ケタを超える高額にのぼったという。
ヒラリーは、人権団体などが訴えかけているカディロフ首長の残虐な行状については「知らなかった」としている。しかしそうした団体のひとつ『The Human Rights Foundation』では、事前にカディロフ首長が過去に犯した罪について書いた手紙をヒラリーに送り、注意を喚起していたという。
13日、ヒラリーはAP通信に対して声明文を出し、式典出席を「深く後悔している」と発表した。彼女は「もしこのイベントの意図することが完全に分かっていたら、決して出席はしなかったでしょう。」とコメントし、「今後は皆さんに疑念を抱かせるような行動はとらず、人権擁護のために力を尽くしていきたい」とした。
彼女の代理人もまた、「カディロフ首長が恐ろしい人権侵害に関わっていることを知っていて、首長から報酬を受け取るのは不適切。彼女にお金を返却するよう促す。」と発表。14日ヒラリーは、受け取った報酬をいくつかの慈善団体に分けて寄付をすると発表した。
イベントにはヒラリーの他にも、世界中から著名人が招待されていた。俳優ケヴィン・コスナーや女優のエヴァ・メンデス、歌手のシャキーラらは、招待を断った。しかし俳優のジャン・クロード・ヴァン・ダムや、英バイオリニストのヴァネッサ・メイさん、英歌手のシールなどはヒラリー同様、高額の報酬を受け取って式典に出席していた。ヒラリーは「オスカー女優としてのキャリアを汚す自殺行為」を取ったと、芸能メディアや人権団体から叩かれていた。
(TechinsightJapan編集部 ブローン菜美)