23日に突然この世を去ってしまった歌姫エイミー・ワインハウス(享年27)は、両親ともユダヤ人で、彼女もユダヤ人として生まれ育てられた。彼女の葬儀が26日にユダヤ教の慣習にのっとって開かれたが、彼女が土葬ではなく火葬されたことなどが、ユダヤ教の純然たる教えに反しているのでは?という疑問の声が上がっている。
26日、ロンドンの北にある「エッジウェアベリー・セメタリー」で行われたエイミーの密葬だが、式はユダヤ教の宗教指導者であるラビが式を執り行い、祈りの言葉は英語とヘブライ語両方で唱えられた。父のミッチ・ワインハウスさんをはじめとした家族の男性達には「ヤマカ」「キッパ」と呼ばれる皿状の小さな帽子を頭にかぶっている人も多く見受けられた。式にはケリー・オズボーンら親しい友人と家族、関係者らおよそ200人が参列。式後には北ロンドンの「サウスゲート・プログレッシブ・シナゴーグ」というユダヤ教の寺院で、家族や親しい友人だけのプライベートな集まりがもうけられたという。
ユダヤ教のお葬式の習慣では通常、死の24時間以内に埋葬を行われなければならないが、検死のためそれはままならず。実はユダヤ教の教えでは、検死そのものが許されていないそうだが、エイミーの場合突然の死であったため死因を特定せねばならず、例外が許されたそうだ。
エイミーの家族はお葬式の当日夕方から、ユダヤ教の伝統にのっとって、7日間家族が弔問客を自宅で受け入れる「シヴァ」の短縮版、2日間の服喪を行ったという。「シヴァ」期間中は、遺族は自宅を離れず外食もせず、もし正統派ユダヤ教徒なら、これに加えてシャワーも浴びず洗濯もせずに、喪に服すと言われている。
と、ここまではユダヤ教の教えを敬虔に実践しているように見えたワインハウス家だが、エイミーの死において、2点がユダヤ教の教えに反していると疑問視されている。
まずエイミーが土葬でなく火葬に付されたこと。ユダヤ教では、人間の体は神のイメージの元に作られたとして、死んだ時にはなるべく「そのままの状態」で神に返すべき、と信じられている。また、死後には「救世主メシア」が死者を復活させようと現れると信じられているが、これは遺体が「そのままの状態」であった時だけに起きるとされている。
そのため火葬は大きなタブー。欧米では一般的な、遺体への防腐加工やお化粧なども行ってはならず、棺もできるだけシンプルに、松の木材製の何の飾りもないものに遺体を納め、土葬するのが一般的だというが、エイミーはこの決まりを破ったことになる。
エイミーは葬儀の後、「ゴールダーズ・グリーン火葬場」で荼毘に付された。火葬を選んだのはワインハウス家の習慣で、5年前に肺がんで亡くなったエイミーの最愛の祖母シンシアさんも同じ場所で荼毘に付されている。エイミーの遺灰は祖母の遺灰と混ぜられ、散布されるという。
ユダヤ教のお葬式での二つ目の大きなタブーは、タトゥー。たった一つであっても、体にタトゥーをいれた人間をユダヤ教の墓地に埋葬することは禁じられているというのだ。それはユダヤ教の聖書に、体に何かを刻んではならないと書かれており、体に穴をあけることは、魂に大きな傷を付けるのと同じだと信じられているから。エイミーは写真のように体中にタトゥーが刻まれており、それだけでもユダヤ教徒向けの墓地への埋葬は難しいのでは、と思われていた。
しかし、南カリフォルニア・ラビ理事会の副理事長であるラビのマーク・ダイヤモンド氏は、『E!』の取材に、ユダヤ教のしきたり上、火葬やタトゥーが大きなタブーであると認めた上で、こうも語っている。
「我々は近代に生きています。多くのユダヤ教徒が火葬を選んでいることは事実で、おススメはできませんが、私達も世界の一部として生きている以上、認めざるをえません。」「ご遺体にタトゥーが入っているからといって、ユダヤ教の墓地から排除することはありません。21世紀において、特に若いユダヤ教徒は、幅広い範囲で教えや習慣、儀式を実践し、さまざまな伝統のブレンドを尊重しています。エイミーの両親がどのように式を行ったかについては、それが心の平和を見つけられるベストな方法だと思ったのでしょう。ならばそれを尊重するしかありません。」
エイミーが毎日を宗教的に生きていた敬虔なユダヤ教徒だったとは思いにくいが、葬式の方法にまでケチがつけられるとは、最期の最期まで何とも気の毒だ。
(TechinsightJapan編集部 ブローン菜美)