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(ジャンル:ロック)
クラシックやジャズのファン、そして「高尚な」ロックファンは、ダンスミュージックを軽視する傾向があるが、そもそも音楽のルーツは歌と踊りと祭礼である。
深遠の極みとされるバッハの無伴奏チェロ組曲をとっても、舞曲の集成であり、ジャズやロックのルーツは言うまでもなくダンス音楽だ。
今回紹介するのは、現代ダンス音楽の中でも究極にまで達した言ってよいであろうケミカル・ブラザーズの1999年の作品「サレンダー」である。
ケミカル・ブラザーズの優れている点は、テクノロジーとの距離の取り方とビートの扱いである。つまり「デジタルビート」であるが、全面的にコンピュータに依存することなく、エレクトロニクス系のサウンドでありながら、アナログ的な手法を残しているところである。
これは音楽の感動を考えるときに非常に重要な要素であり、一部のヒップホップやテクノサウンドが非常に陳腐に聞こえるのは、サウンド処理を全面的にコンピューターに依存してしまっているからだ。
また、J-POPの流行がここ10年の間で、ハイセンスなアコースティックサウンドからワークステーション処理のデジタルクリエートになっていったものの、「どれを聴いても同じ」ような音楽が量産され、近年は”いきものがかり”のような手作り系音楽や坂本冬美がカバーした「また君に恋してる」のような歌謡曲に回帰しているのも同じ現象である。
ケミカル・ブラザーズの使う音色は、限りなくアナログに近いエレクトロニクスサウンドであり、どちらかといえば古めかしい機械臭のする音響である。これはあくまでもシンセサイザーやコンピューターを「楽器」として使いこなしている証であり、「楽器演奏」というスタンスから離れないことが音楽の魅力を高めているのである。
そして、1999年という世紀末に発表されたアルバム「サレンダー」は、モダン・ダンスミュージックとして「鑑賞」に十分値する質の高さと、実用的なダンスビートとしての両方を兼ね備えた素晴らしい作品である。
近年のケミカル・ブラザーズはサイケデリックサウンドに傾斜しており、これは古典回帰とも言えるが、古典に回帰することは、未来を予見することでもある。
現代最良のダンス/ロックユニットの一つであることは疑いないであろう。
(収録曲)
1. ミュージック レスポンス
2. アンダー・ジ・インフルエンス
3. アウト・オブ・コントロール
4. オレンジ・ウェッジ
5. レット・フォーエヴァー・ビー
6. ザ・サンシャイン・アンダーグラウンド
7. アスリープ・フロム・デイ
8. ガット・グリント?
9. HEY BOY HEY GIRL
10. サレンダー
11. ドリーム・オン
(TechinsightJapan編集部 真田 裕一)