writer : techinsight

【名盤クロニクル】自動演奏の可能性ふたたび パット・メセニー「オーケストリオン」

(画像提供:Amazon.co.jp)

(ジャンル:コンテンポラリー)

パット・メセニーは、ジャズギタリストという一範疇におさまるアーティストではない、あらゆる音楽の可能性を追求し、独自の世界を構築してきた天才である。
そのパットが今年初めに発表した最新作は、オーケストリオンという楽器自動演奏システムと競演した作品である。単に珍しいというだけではない、音楽とテクノロジーの関係を考察するのに非常に優れたアルバムなのだ。

1970年代末から1980年代初頭にかけて、シンセサイザーとコンピュータの発達により、人間が楽器を演奏しなくても、機械がすべて演奏することが可能になった。その時に「これでもうオーケストラは必要ない」とまで言われたが、実際にはオーケストラは健在である。

1980年代後半、パット・メセニーは他の先鋭的なミュージシャンと同様、「シンクラヴィア」と称する自動演奏装置を使った作品を発表。このシステムは人間には演奏不可能な、リズムやフレーズを電子的に鳴らしてしまうシステムとして、当時は画期的であったが、アコースティック楽器が不要になることはなかった。

その後、DTMの急速な発達により、楽器演奏者不在でも音楽の生産は可能になったが、依然として生楽器奏者は必要とされている。

つまり、音楽のルーツは「歌と踊り」という人間の営為であり、そこから離れすぎると音楽としての活力を失うのである。

むしろ、人間には演奏困難なフレーズや音色の制御のために補助的にテクノロジーを使用することで、音楽も精彩を増すということである。

今回紹介するパットメセニーの最新作「オーケストリオン」は、人間が演奏してもよい生楽器を機械により制御して演奏させている。19世紀末から20世紀初めにかけて実際に存在したという自動演奏装置「オーケストリオン」により、人間には「かなり困難な」アンサンブルを自在に奏でている。このさじ加減こそが「オーケストリオン」の魅力である。

2010年6月には、このシステムを率いての来日が予定されている。視覚的にも非常に楽しい、素晴らしいコンサートになるに違いない。

(収録曲)
1. オーケストリオン
2. エントリー・ポイント
3. エクスパンション
4. ソウル・サーチ
5. スピリット・オブ・ジ・エア
(TechinsightJapan編集部 真田 裕一)