writer : techinsight

【名盤クロニクル】ゲルギエフ指揮「ショスタコーヴィッチ交響曲第5番/第9番」

(画像提供:Amazon.co,jp)

(ジャンル:クラシック)

「クラシック音楽に解説は必要か」という永遠のテーマがある。
モーツァルトやハイドンの音楽ならば、一般に音そのものを楽しめばよいのだが、ロマン派以降の音楽については、作曲者が曲に込めた意図や文学的モチーフなど、さまざまな解説がもれなく付いてくる。
しかし、どんなに解説を読んでも実際に聴かなくては何もわからない。最初に鑑賞ありきという姿勢が正しいであろう。
この解説過剰という現象は、20世紀ソビエトの作曲家ショスタコーヴィッチについて特に顕著であるが、今回は先入観を打ち払って聴いてもらうためのガイダンスをお届けする。

ショスタコーヴィッチは、全部で15曲の交響曲を残しているが、その中でも第5番は「革命」という副題が付くこともあり、古くから親しまれている作品だ。

この曲の第4楽章はドラマ「結婚できない男」の主人公、桑野信介がイライラしたときに大音量で流す音楽であり、ドラマを見た人なら「ああ、あの曲ね」と思い出す人も多いだろう。

ショスタコーヴィッチの書く管弦楽の響きは、原色と言われ、つまり楽器の音色を混ぜずに、ストレートに響かせるため、下手な演奏で聴くと、軍楽隊のように響くことがある。

しかし、今回紹介するゲルギエフ指揮の演奏は、そうした安っぽさとは無縁の格調高い交響曲として演奏しており、何も考えずに聴いて素直に楽しめる内容だ。クラシック初心者にもオススメである。平明な楽想と胸の躍るような盛り上がりに、心が熱くなるに違いない。

こうした紹介をすると、解説好きな人々が「この曲は、ショスタコーヴィッチがスターリン体制下で生き延びるために書いた妥協の産物」とか「随所に込められた作曲者の真意」といった説明をなさってくることがあるが、気にしなくてもよい。

もちろん興味があるなら、傾聴しても良いだろうが、ソビエト連邦はすでに存在せず、スターリン体制も歴史の暗部として認識されている21世紀である。ショスタコーヴィッチを過剰な解説/歴史的考察から解放し、痛快な交響曲作家として聴いてよいだろう。

なお、15曲の交響曲はどれも個性に溢れた作品である。並録されている第9番は打って変わった軽快な曲でなので、聴き比べてみると非常に楽しい。

ショスタコーヴィッチの残した作品は、幼児でも楽しめる軽い音楽から、生きているのがイヤになるほど陰鬱な弦楽四重奏まで、さまざまである。ぜひ広大なショスタコーヴィッチの音楽世界の1ページとして本作を聴いてほしい。

(収録曲)

1. 交響曲第5番ニ短調op.47
2. 交響曲第9番変ホ長調op.70
(TechinsightJapan編集部 真田 裕一)