今回の【ドラマの女王】は、小林薫主演の『深夜食堂』。不景気一辺倒だった2009年も、あっという間に12月。政権交代しても、ちっとも先が見えない疲れた日本の大人達にぴったりのおとぎ話風「居酒屋ドラマ」。とにかく酒を飲んだ後に食べたくなるような、豚汁やお茶漬けなどの渋いメニューや、店に集う人々の哀愁ある人間模様にヤラレっぱなし。これ、ドラマなのに胃もたれに効く?
さまざまなお客が訪れる「居酒屋風めしや」。手早く料理を出してくれる無口なマスター(小林薫)は、目にキズがあり、過去に何かあった感じがうかがえる。そのためか、世間が分かっていて、さりげなく優しい。そんな彼の店には、新聞配達に明け暮れる苦学生や、ボクサー、スナックのママ、女性演歌歌手、イヤミな料理評論家など、明け方まで絶えず溢れず客がやって来る。
前回紹介した安藤玉恵、松重豊、田口トモロヲに引き続き、風間トオルのAV男優だとか、ギターを持ったあがた森魚の「流し」の回だとか、深夜らしく哀愁のあるストーリーと、異色キャストが満載。須藤理彩やオダギリジョーのレギュラーに加え、活躍めざましい田中圭やYOUといった人気者が出たかと思うと、柿丸美智恵や音尾琢真、山本剛史、米村亮太朗など、舞台や映画でカルトな人気を誇る俳優たちをバンバンちりばめてくる。
記者がお気に入りなのは、第5話の「バターライス」。とりまきに連れられてマスターの店にやって来た、有名料理評論家(岩松了)が、いやらしく料理のウンチクを語り、店の雰囲気を悪くする。そんな彼もご飯の上にバターを乗せただけの「バターライス」の美味しさに心を奪われ・・・・。
毎回強力な監督・脚本(山下敦弘、及川拓郎、向井康介など)スタッフを迎え、とにかく映画やサブカルチャーオタクの心をくすぐるように作られている『深夜食堂』。これはある意味実験的なドラマ。それでいて、安倍夜郎の原作マンガの世界を壊さない優しい出来ばえで、面白くない訳がないのである。
“大人のおとぎ話”もいよいよクライマックス。いつもは明日の朝のために「あらびき団」まで見て寝ていた人も、忘年会や年末の“飲み”でアフター5が忙しい時期。「飲んで騒いで帰ってきて、TVをつけたら『深夜食堂』やってた。お茶漬け食べたくなった。」なんて人もいるんだろうな、きっと。
(TechinsightJapan編集部 クリスタルたまき)