美少女が登場しない人気少年漫画をもう一つ。『な なんだってー!』でおなじみ、1990年から1999年に週刊少年マガジンで連載されていた「MRM マガジンミステリー調査班」だ。
週刊少年マガジン編集部に寄せられたUFO体験談。目を輝かせてその内容を話す編集者「キバヤシ」とUFO否定派の「コイブチ」が、体験談を寄せた少年の住む北海道へ向かうこととなった。
天文学者の助手をしている「カジワラ」を加え、一向は取材を始める。UFOが着陸したと思われる“環状痕”の存在や、住人の目撃談、神隠しの言い伝えなどによりキバヤシはUFOの存在を確信するが、コイブチの考えは覆らない。そんな中、UFO目撃談が相次ぐ山中でキバヤシらはコイブチとはぐれてしまう。翌日ふらりと戻ってきたコイブチには、はぐれてからの記憶がなかった。
コイブチはUFOにさらわれたのではないか。そう考えたキバヤシは逆行催眠でコイブチの記憶を探るが、大きな手がかりは得られない。環状痕の土壌調査も平凡な結果に終わり、キバヤシが考える真実に近づけぬまま取材は終わった。しかしコイブチの右胸には、以前にはなかった傷跡が……!
以上が第1話「UFOからのメッセージ」のあらすじである。話ごとにミステリーサークル、キャトルミューティレーション、超能力、マインドコントロール、ピラミッド、ムー大陸、前世、マヤ文明、インカ帝国、予知夢などなど不思議なものを取り上げてMMR(マガジン・ミステリー・ルポルタージュ、つまりマガジンミステリー調査班)がその謎に迫っていくのだが、その行く末にあるのは、ノストラダムスの大予言だ。
若年層はその存在すら知らないかもしれないが、ざっくりいえば、1999年に恐怖の大王がやってきて地球が滅亡するというもの。キバヤシはとかく超常現象をこれに結びつけたがる。彼の手にかかれば睡眠障害までもが予言されたことになってしまうのだ。『時空を超えてあなたは一体何度――我々の前に立ちはだかってくるというのだ!!ノストラダムス!!』は、私的名台詞である。
キバヤシは、不思議なものを否定することを嫌う。彼の前でうっかりあり得ないなどと言おうものなら厳しい叱咤が待っている。反面、彼は現実的なことに関しては懐疑的である。学者や識者が示した見解はまず疑ってかかり、独自の理論を展開してノストラダムスに寄せていく。
キバヤシのオリジナリティあふれる思考回路は、陰謀論に満ちている。国が軍事目的で超能力者を利用している。ピラミッドは権力者のDNA貯蔵庫。マッドサイエンティストが人工衛星を使って、はたまた軍と大企業が結託してコンピュータ・ゲームで、人類を洗脳している。闇の権力者集団が権力に従わないものを“絶命遺伝子”を使って殺そうとしている。コミックス巻頭に記された「この物語は事実をもとにしたフィクションです。」の文字がかすんで見えるトンデモぶりである。
この作品をSFミステリーではなく、ギャグだと認識している読者は多い。かくいう私もその一人であるが、これを1990年代にいたいけな少年少女が読んだとすればどうであろう。予言が身近な恐怖として感じられたのではないだろうか。
そして今、2012年が近づいている。古代マヤ暦により地球が滅びるだの滅びないだの囁かれている年まで、あと2年と1ヶ月なのだ。そんな今だからこそ、あえてこの作品を読んでみるのもいいだろう。超常現象肯定派も、否定派も、どちらでもないが両者のケンケンゴウゴウが超おもしろい派も、いろいろな意味で楽しめることを約束する。
(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)