今回の【ドラマの女王】は、塚地武雅主演『裸の大将・火の国熊本編』(フジテレビ系)。初代山下清が当たり役だった芦屋雁之助のイメージをかなり上手いこと受け継いでいるお笑いコンビ「ドランクドラゴン」の塚地の「裸の大将」ももう四作目。雁之助の清を知らない若年層にも確実にファンを増やしている。日本のゴッホ山下清が生きた昭和40年代の豊かな地方色を今に伝える良質ドラマ。相方の鈴木拓も、イヤミな役で「いい演技」をかましている。
ダ・カーポが歌うやさしい主題歌『野に咲く花のように』が流れ、豊かな日本の田園風景に突如現れる白いランニングシャツの坊主頭・山下清(塚地武雅)。今回は火の国・熊本にやって来た。ひょんな事から町の人から愛されている医師の「ガン子先生」頑子(市原悦子)の診療所を手伝うことになった清。
ガン子先生は祖父が作った芝居小屋・八千代座を守る為、必ず八千代座を満席にすると町の企業家・伊津野(中尾彬)と約束。伊津野の息子と駆け落ちした看護士の多美(石原さとみ)との結婚騒動も飛び出し、ガン子先生のために奔走する清だったが・・・・。
「裸の大将」をぜんぜん知らない人もいるだろうから説明するが、“放浪の天才画家”山下清は、軽い知的障害をもちながらも常人では成しえない「驚異的な映像記憶力」と芸術センスを兼ね備えたアーティスト。千葉県の施設・八幡学園に一応籍を置いているが、じっとしていられないたちで日本中を旅して回った。晩年は有名になりすぎて、行く先々で人々に注目されるようになってしまい、そのストレスもあってか、1971年に脳出血のため49歳の若さで死去。ドラマでは、清が活発に作品を残した昭和40年代初頭の旅が描かれている。今回も「こんなところまだあるんだ!」と思わせる熊本の自然や町並みが美しい。
同じ言葉を繰り返し、時折挙動不審な清は行く先々で珍騒動を起こすが、彼を受け入れる旅先での心やさしい人々との出会いにより、珠玉の物語が展開されていく。同じように旅先でのエピソードを綴る人気映画『男はつらいよ』とちょっと似たスタイルをもつドラマで、ファン層の「大多数」がかぶると言っていい。
最初記者は新しい清に慣れなかったが、器用な塚地の演技力や芸達者なゲスト、前シリーズとほぼ同じドラマの作り方にもう安心して見る事ができる。毎回登場する、相方の鈴木拓演じる(役は違うが)風見鶏男、清を追いかけるインチキ画商・岡本(森本レオ)の演技も楽しみだ。
旅先ではほとんど絵を描くことがなく、学園や実家に帰ってから記憶を基に絵や貼り絵を描くというスタイルだった山下清。実はこういう才能は自閉症やダウン症などを持つ人に多く見られ、実際彼らは多くの感動を人々に与えている。役者は変われど、このドラマを続ける意義は大きい。
(TechinsightJapan編集部 クリスタルたまき)