writer : techinsight

【映画行こうよ!】これぞ是枝裕和監督マジック。辛くも美しいラスト『空気人形』。

(C)2009 業田良家/小学館/『空気人形』製作委員会
  写真/瀧本幹也

第62回カンヌ国際映画祭のある視点部門で上映された是枝裕和監督の『空気人形』。2004年に公開された『誰も知らない Nobody Knows』(柳楽優弥主演)で、実際起きた痛ましい事件を映画化し賛否両論を巻き起こした是枝監督の最新作である。幼女のような素直な心を持ってしまった空気人形が、都会で暮らす様々な人々の「孤独」を浮き彫りにしていくファンタジー。無機質な動きながらも、人間的な感情を痛いほど表現し、空気人形役で美しいヌードを披露してくれたのは『リンダ リンダ リンダ』(山下敦弘:監督2005年公開)の ペ・ドゥナ。

「とある男性の所有物だった“夜のお供”の空気人形が、ある朝心を持ち始め・・・・。」
成人漫画でやや使い古されたような題材を、美しく切ないラブストーリーにした是枝裕和監督。記者自身は是枝作品に触れた事がなかったが、魅力的すぎるキャストに惹かれて朝一番の劇場へ足を運んだ。

セックスを連想させる空気人形を演じるペ・ドゥナのメイド姿に反応するのは男性ばかりかと思いきや、客席には女性ばかり。映画が始まるとその理由が分かった。
タンポポの綿毛みたいに文字がふわーっと飛んでくカワイイ始まりや、全編で流れる乙女チックなオルゴールの音色。空気人形・のぞみが集めてくる色ガラス瓶、オモチャの指輪、りんごの形のバックなど、ノスタルジックな小物で綴られた“お人形物語”は、女性こそ飛びつきやすい。『ピンポン』以来、多数の映画に出演しているARATAは年を重ねてもステキだし、終盤に登場する人形作家役の俳優も女性に大人気だ。(誰かは劇場でお確かめを。)

ある朝、心(生身に見える体も)を持ってしまったビニール製の人形・のぞみ(ペ・ドゥナ)は、夜は“人形に戻り”持ち主(板尾創路)の相手をし、昼間はビデオ店の店員として働く。そして様々な人間と触れ合い、店員の純一(ARATA)を愛しはじめる。
飲食店に勤める“持ち主”の男(板尾創路)をはじめ、余貴美子、岩松了、富司純子、などが演じる都会に住む(舞台は東京下町)人々の“孤独”の描き方が絶妙。見てると空しくなる。老人(高橋昌也)や少女(奈良木未羽)の存在感もすごい。最近いいと思う映画には必ず出てくる柄本佑や、星野真里が演じる「若者たちの闇」もリアルだ。

純一の愛を受け入れることで、生なましくも悲しい「人間の業」を知り、恋が終わる空気人形。空気人形としての末路を迎える「辛くも美しいラスト」はさすが、これぞただの女子映画に終わらせない是枝裕和監督のマジックである。

『空気人形』は渋谷シネマライズ、新宿バルト9ほか絶賛公開中。
(TechinsightJapan編集部 クリスタルたまき)