銀行や郵便局に強盗が入り、しかし果敢なテラー(窓口担当者)が、被害もけが人も出さずにその犯人を取り押さえることに成功したら、それは警察も表彰する素晴らしいヒーローの誕生である。だが、ある銀行は先週、支店窓口に現われた強盗犯を取り押さえた男性テラーに対し、違反行為であったとしてクビを言い渡した。
13の州に985店舗を構える銀行である「KeyBank」で7月28日、シアトルのロウワー・クウィーン・アンにある支店窓口に強盗犯が現われた。
2年以上テラー業務を勤務していたジム・ニコルソンさん(30)は、“強盗の要求に速やかに応じ、衝突は避ける” という対応マニュアルが頭をよぎったが、犯人との対話を試み、そこから武器は持っていないことを直感、お金の入った袋を投げると同時にカウンターを飛び越え、逃げる犯人を追いかけた。
数ブロック離れたところで犯人に見事なタックルをかわしたニコルソンさんは、通行人の協力を得ながら、警察官が到着するまで犯人をはがいじめにして待った。逮捕された強盗犯容疑者は29歳、それまでにも数々の盗みの前科があるというが、今回の事件についてはまだ取り調べの最中であり、名前は公表されていない。
一方で31日、キーバンク経営者はニコルソンさんに対し、FBIや警察も奨励しない危険なやり方を彼は冒したこと、強盗犯をなるべく早く立ち去らせるよう指導してきた日頃のトレーニングを無視し、犯人を捕えてヒーローになろうなどいう考えを起こしたことは許されないと説明し、解雇を言い渡した。
ニコルソンさんはその後、新聞、テレビなどの取材にこのように話している。
「彼らにはとにかく法令遵守が最優先のようです。でも私は、犯人を取り押さえたいという本能で動いてしまいました。もしも今回逃がしたら、コイツはまたうちの支店にやってきて同じことをやらかす、あるいは別の銀行でもやるだろうと思い、許せなかったんです。」
「もちろん、銀行からの叱責は覚悟していました。あるいは逆に “お褒めの言葉” があるのかも、なんて密かに期待もしていましたが、なんと言い渡されたのは解雇でした。」
ニコルソンさんは、ニューヨークやカリフォルニアの小売店で販売員として勤務していた頃、幾度も万引き犯を追いかけたといい、その日も銀行強盗犯に自分は勝てると直感したのだという。
シアトル警察署ではいっそのこと警察官になったらよいのではないかと勧められたと言い、銀行経営者らに対しては別に恨みも抱いていないニコルソンさんである。
「もしかすると、私はこういうことに喜びを見出してしまっているかも知れませんね。このスリルにアドレナリンが噴出するというか…。うまく行くとスカっとするんです。」
(TechinsightJapan編集部 Joy横手)