10月10日に公開が迫った映画「カイジ 人生逆転ゲーム」。主演と友情出演という形ながら「DEATH NOTE(デスノート)」コンビの復活など、公開前から話題を呼んでいる作品だ。原作はデスノと同じく漫画であり、「賭博黙示録カイジ」「賭博破戒録カイジ」「賭博堕天録カイジ」、さらには「賭博堕天録カイジ~和也編~」と続いている人気シリーズである。
東京に来て3年の「伊藤開司(カイジ)」。働かずに酒と博打に明け暮れ、高級車にいたずらをしては鬱憤をはらす日々を送っていた。ところがある日突然、知人に陥れられて400万円近い借金を背負っていたことを知る。それを一日で返済できると取り立て屋に勧められたのがギャンブル船「エスポワール」への乗船だ。勝てば借金がちゃら、負ければ強制労働という、参加自体が大博打のギャンブルクルーズ。フランス語で希望を意味する船上で、カイジの戦いが始まる。
ギャンブル物でありながら、この作品に登場するゲームは既存の物ばかりではない。その代表格として挙げられるのはやはり、カイジが最初に挑戦する「限定ジャンケン」であろう。
限定ジャンケンとはグー、チョキ、パー、それぞれ4枚、合計12枚のカードを使ったジャンケンであり、一枚のカードにつき使えるのは一回きり。会場全体のカード枚数は常に全員が把握できるよう電光掲示板に記されている。対戦は参加者同士で行われ、全員が胸に付けている3つの“星”を奪いあう仕組み。ジャンケンで勝てば相手から星を奪え、負ければその逆というわけだ。最終的な勝利条件は星を3つ以上所持していると同時に手持ちのカードがゼロであること。制限時間は4時間である。
説明だけではぴんとこないかもしれないが、このゲーム、実によくできている。ジャンケンという誰もが知っているゲームを、カード、星、主催側からの貸付金の3つの要素で智略戦へと昇華させ、結果、確率と心理を突き詰めたものに勝利が与えられることとなった。この他にも作中ではさまざまなゲームがいかさま上等でくり広げられる。
ゲームシステム以上に秀逸なのが、ゲーム中の登場人物の描写。裏切りに次ぐ裏切り、ブラフに次ぐブラフで読者の心さえ疑心暗鬼にからめとる術は見事の一言だ。特に敗色濃厚な人物が崩壊しゆく様には有無を言わさぬ恐怖がある。ページをめくりながら聞こえるはずのない破滅の音にハッとさせられ、何度周囲を見回したことか。それはギャンブルは怖いという生易しい通常概念から大きく逸脱したものであり、根源から湧き上がってくる種類の恐怖なのだ。
これほどの臨場感を味わわせてくれるのはギャンブル漫画数あれどそう多くはない。パチンコ、しかも一発台の、大当たりの穴に玉が入るか入らないかでコミックス9巻相当を飽きずに魅せられる漫画がほかにあるだろうか。また、ギャンブルといった意味からはやや外れるが「人間競馬」は本当に恐ろしい。高所恐怖症である私はその場面を読んだ夜、何度も階段を踏み外す夢を見てしまった。
これだけ怖い怖いというと女性は躊躇してしまうかもしれない。しかもあの絵柄だ、好んで手に取る女性はそう多くはないだろう。しかしおもしろいことは保証するので、騙されたと思って読んでみてほしい。賭博黙示録を読み終える頃には絵にも慣れ、藤原竜也の顔があのタッチで見えてくるであろう。
(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)