11月には実写ドラマシーズン2の放送が、2010年には同キャストでの映画の公開が決定している「LIAR GAME」。原作はヤングジャンプで不定期連載されている同名漫画である。
正直なだけがとりえの女子大生「神崎直(ナオ)」のもとに「LGT事務局」と名乗る団体から不審な小包が届いた。中に入っていたのは現金1億円と「LIAR GAME」へのエントリーカード。1回戦はナオと同じように1億円(マネー)を配られた対戦相手からそれを奪い、ゲーム終了時点でより多くのマネーを所持している方が勝利するという。事前に配布された1億円はゲーム終了時に事務局が回収することになっており、奪ったマネーはそのまま賞金に、奪われたマネーは負債となる。ゲームのルールを理解した直は、大金を手にする野望よりも借金を負う恐怖におびえた。
直は弁護士に相談するも、まだ被害を受けていないということでけんもほろろ。追って知らされた対戦相手が偶然にも中学時代の恩師であるとわかり胸をなでおろしたが、その恩師にまんまと1億円を騙し取られてしまった。八方ふさがりとなった直は、詐欺のことは詐欺師に聞けという弁護士の言葉を思い出す。藁をもつかむ思いで出所したばかりの天才詐欺師「秋山深一」を味方につけ、恩師に宣戦布告を叩きつけた。『先生の持ってる二億円――絶対に全額奪います』。
作品に登場するゲームは参加者同士の駆け引きが重要なのだが、お人よしのナオには人の心を読み、つけ込むことなどできない。そこで心理学の心得もある天才詐欺師・秋山の出番というわけだ。
ルールの裏を考えゲームの真意を計り、敵の隙を見つけて勝利をかすめ取る秋山。途中ハラハラする場面もあるのだが、最終的に秋山が負けることはない。スーパーヒーローありきの予定調和のスリル。しかしそれでも作品の魅力が褪せないのは、種明かしの明快さによるところが大きい。
秋山がゲーム中なにを見、どのように捉え、結果どう動いたかはゲームの最後に必ず明かされる。多くの場合ナオへの解説という形で行われる種明かしは、上質なミステリーのように読者が抱えていた謎をきれいさっぱり解明してくれる。簡単なことだよワトソン君、である。
しかし秋山が支配しているのはあくまでゲームのみ。作品全体を牽引しているのは、意外にもナオである。
ナオは光である。他人を欺き、蹴落としてでも大金を手にしたいと考える者がほとんどのライアーゲームにおいて、彼女だけは騙されても騙されても人を信じることをやめない。連載開始当初はナオの光によって秋山が持つ若干の冷酷さやゲーム序盤で立ちはだかる「フクナガユウジ」の狡猾さなどがより濃い影として際立ち、よいスパイスとなっている。
しかし前科があるとはいえ元々の悪人ではなかった秋山は、ナオの人の良さに感化されていく。騙しあいが前提と考えられていたゲームにおいて、ナオと秋山は次第に周囲と信頼関係を築き上げながら勝ち進むようになるのだ。時として敵にまで手を差し伸べるナオの優しさは、他の参加者の心をも溶かしていく。秋山というスーパーヒーローに助けられるだけの存在だったはずが、気がつけば周囲の影を打ち消すほどの輝きを放っているのだ。
秋山がいわば“善”よりになることで作品としては精彩を欠くかと思いきや、よりゲームで魅せる純度が高まっている。当面の“悪”役である「ヨコヤ」打倒のお題目はあれど、それはおまけ程度のもので、読者にとってはゲームの進行に胸躍らせることが最優先事項である。
秋山の智略とナオの心根。読み終えた後は頭と心が非常にすっきりする作品だ。現在発行されているコミックスは9巻、ストーリーはまだまだ中盤といったところであり、ドラマ放送前の予習の意味もこめて、今から読み始めても遅いことはない。すぐそこまで来ている秋の夜長にふさわしい、じっくりと読みふけりたい漫画である。
(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)