主人公がマチャアキだったり、シンゴだったり、世代は違っても多くの日本人の心に刻み込まれている物語、西遊記。その西遊記とさほど関係はないけれど、あの西遊記があるからこそおもしろさが増す漫画がある。その名も「最遊記」、件の西遊記とは似て非なるファンタジー作品だ。
舞台は“文明と信仰の源”である「桃源郷」。人間と妖怪が共存する平和の地でもあったが、妖怪が突如凶暴化し、人間を襲うようになってしまった。元凶は500年前に討伐された「牛魔王」の“化学と妖術の合成”による蘇生。それを阻止し、桃源郷を取り戻すため「玄奘三蔵」は「孫悟空」「沙悟浄」「猪八戒」を率いて天竺国をめざす。
三蔵をはじめ主な登場人物は、あの西遊記と同名である。しかしながらキャラクター設定はまったく別となっているのがポイントだ。
三蔵は煙草は吸うは酒は飲むわ、あげく拳銃を撃ちまくる生臭坊主。悟空は色気より食い気のやんちゃ系ショタキャラであり、悟浄は赤いロングヘアーが特徴の女たらしである。そしてもっとも従来のイメージと違うのが、八戒。これまでに演じてきた俳優の誰からも想像のつかない、長身痩躯の美青年なのだ。これらキャラクターのギャップだけでつかみはOK、全員がイケメンであることは言うまでもない。
ファンタジーに登場するイケメンキャラは影がなくてはならない。作品内で少しずつ紐解かれるバックグラウンドに悶え、明かされない部分は妄想で補い萌えるのが腐女子の作法である。その点ではこの作品は満点だ。
次から次へとちりばめられ、あばかれるキャラクターたちの過去。それぞれが癒しきれない傷を抱えており、それでもなんとか生きている。表面上は“何も考えていないようで何をしでかすか理解できない連中”であり、なにをするにも無法で泥臭くすらあるのだが、格好つけないことであえて格好よく見せる格好のつけ方は非常に中二的である。
自分のためだけに戦う、弱さゆえの強さを持つイケメンキャラクターたち。これだけで女子が別世界への扉を開けるきっかけとなるのに十分だ。いや、ややもすれば思春期の男子も危うい。ちょっとした台詞回しや構図にもそういった意味でエッジが効いており、誰もが心の奥にしまい込んでいる中二的な部分を巧みにくすぐってくる。まったくもって油断ならない作品だ。
腐女子とまでいかなくともややそっちの気があるのならば、絶対に読んだ方がいい作品であることは間違いない。読み終えてコミックスを閉じた瞬間、これまでとは違う世界が広がっていることに気がつくはずだ。
(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)