元ヤンキーでケンカは無敵、生徒を救うためにはとんでもない身体能力を発揮する教師「鬼塚英吉」を描いた「GTO」。鬼塚が見せる小気味良いアクションシーンはもちろん、登場人物の巧みな心理描写も見逃せない。
鬼塚が担任を務める“元2年4組”は、かつてクラスの人気者であった「相沢雅」が当時の担任教師に傷つけられたことがきっかけで、教師という存在そのものを憎むようになっていた。相沢本人が率先して“担任いじめ”に精を出していたが、これまでの教師とはまったく違う鬼塚に惹かれてクラスメイトが一人、また一人と担任いじめをやめていく。かねてから両親の不和により家庭をも嫌っていた相沢は、学校での居場所もなくすことになる。
物語はこの相沢のトラウマや苦悩を中心に進んでいくのだが、心に傷を負っているのは相沢だけではない。手ひどいいじめにあっている「吉川のぼる」、相沢に憧れるあまり意のままに使われる「野村朋子」、親がやくざゆえに友人がいないと思い込んで引きこもる「宮森勇気」。さらには孤独な天才児「神崎麗美」、大人全般を憎む「和久井繭」、男性に不信感を持っている「常盤愛」、恩人を慕うあまり暴走する「渋谷翔」など、作中の少年少女は少年誌にしては重すぎるトラウマを抱えている。詳細はネタバレとなるのでここでは控えるが、漫画とはいえ胸が悪くなるようなエピソードがてんこ盛りだ。
しかし安心してほしい。彼らのトラウマや苦悩は鬼塚がきれいさっぱり解消してくれるからだ。物語はあくまで勧善懲悪であり、鬼塚は悪を懲らしめる正義のヒーローである。ところが身から出た錆によりトラブルに巻き込まれた生徒については、鬼塚はぎりぎりまで助けない。それどころか“悪”の側に加担するような場面すらある。しかしこれには真意があり、鬼塚はまず自分の力で立ち上がることを教えているのだ。そしてそれができた生徒たちには助力を惜しまない、まさにグレート・ティーチャーである。
トラウマにあえぐのは生徒たちばかりではない。鬼塚の同僚である教師たちも、それぞれ悩みを抱えている。特に高級官僚である父と兄のプレッシャーに怯えながら生きてきた「勅使川原優」、学生時代に教師に裏切られたという思い込みで復讐心を抱き続ける「大門美鈴」は、後に鬼塚に救われて改心する。
GTOは大人の苦悩やコンプレックスをも描くことで、従来の学園漫画のターゲットではない社会人層からも高い評価を得た。教師ものにありがちな青臭い部分もギャグを交えることで心地よく感じられ、笑えて、泣けて、感動できる珠玉の作品に仕上がっている。連載当時学生だった読者の多くは、現在社会人になっているはず。今こそもう一度、グレート・ティーチャーの心意気に触れてみてはいかがだろうか。
(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)